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限界オタクのにわか数学屋さんが書いています。

よくわかる現代数学 位相3「位相同型」

突然ですがここで、位相クーイズ(謎テンション)。次のうち、数学的に同じものと見なすことができるペアはどれでしょう。

1.湯呑みとマグカップ
2.湯呑みとドーナツ
3.マグカップとドーナツ

正解は最後まで読むと多分分かります。この時点で正解が理解できる人にとっては時間の無駄ですのでブラウザバックしていただいて大丈夫です。

連続写像

stiltszeta.hatenablog.com
前回、写像が連続であるとはどのような場合を指すか、ということを説明しました。今回はその補足から入ります。

位相空間(X,{\mathscr O}_X)(Y,{\mathscr O}_Y) とします。 (X,{\mathscr O}_X) 上のある点 x について写像 f:X \to Y が連続であるとは(以下略)と、近傍を用いて定義しました。更に、X の全ての点で連続である時、写像 f連続写像と言います。

連続関数と言った方が馴染みがあるかもしれません。数Ⅲとかで極限を用いて示したアレです。定義が近傍に変わった形になります。

ですが、位相空間論において、連続であることを確認するのに近傍を用いる場面というのはそれほど多くありません。連続という概念には次に示す性質があり、わざわざ近傍系を用意するまでもなく確認することができるからです。

以下の四つは同値である。
1.写像 f:X \to Y連続写像である。
2.Y の任意の開集合 O_Y について f^{-1}(O_Y)X の開集合になる。
3.Y の任意の閉集合 F_Y について f^{-1}(F_Y)X閉集合になる。
4.X の任意の部分集合 A_X について f(\overline{A_X}) \subset \overline{f(A_X)} が成り立つ。

同値であるというのは互いに必要十分だということです。数Aでやりましたね。証明は省略しますが、このようないくつかの命題の同値を示す場合は、1⇒2、2⇒3、3⇒4、4⇒1を証明するなどします。別にこんな感じで一周する必要はありませんが、どんな命題から始めても矢印に沿ってどんな命題へも行けるという図式を書けないといけません。

枠内の主張ですが、よく目につくのは2と3です。開(閉)集合の逆像が開(閉)、というシンプルな性質です。

写像

過去記事で重要なことを書いていなかったので、今から書きます。

一般に、写像 f:X \to Y全射であるとは、Y のどんな元 y を持ってきても X の元 x により f(x)=y で対応させられることを指します。また、写像 f:X \to Y単射であるとは、X のどんな元 x_1,x_2 を持ってきても x_1 \neq x_2 ならば f(x_1) \neq f(x_2) となることを指します。

身近な例だと、三次関数 f:{\mathbb R} \to {\mathbb R}全射であり、単射でないとなります。「全射 単射」で画像検索すれば分かりやすいイメージ図が落ちてると思うのでお絵かきはしません。

また、写像 f全射であり単射である時、これを全単射と言います。x,yf(x)=y によって1対1に対応させられる、とてもよい性質を持った写像です。1対1というのが重要です。

1対1ということは、別の写像 f^{-1}:Y \to X を用いて f^{-1}(y)=x と表すことができるということです。このような写像 f^{-1}写像と言います。逆像と同じ記号を使うことがほとんどなので注意が必要です。

位相同型

これにて準備はおしまい。以下、今回の山場です。お楽しみはここからです。

位相同型

では改めて、位相空間(X,{\mathscr O}_X)(Y,{\mathscr O}_Y) とします。写像 f:X \to Y全単射つまり逆写像が存在し、かつ連続で、逆写像 f^{-1}:Y \to X もまた連続である時、写像 f同相写像と言います。また、二つの位相空間 X,Y の間にこのような同相写像が定義できる時、XY同相または位相同型であると言います。

もう少し別の言葉で言い換えると、ある図形 X がなめらかな変形によって別の図形 Y になる時、これら二つの図形を同じものと見なすということです。喩えるなら粘土をこねこねする感覚です。ただし、ある部分同士をくっつけたり、逆にちぎったりといった操作は行えないものと思ってください。あくまでこねこねするだけです。くっつける操作をするためには更に別の概念が必要です。

こうした連続な変形を許すことが、トポロジーを柔らかい幾何学だと称する所以でもあります。

具体的に例を挙げればキリがないですが、正方形と円だとか、立方体と球だとか、そんな感じです。童心に返って粘土をこねこねしてください。そういう動画をどこかで見た気がするので、インターネット上で検索してみるのもいいでしょう。

高校数学までに修める初等幾何でも、二つの図形を同じものと見なす、という考え方には馴染みがありますね。形や大きさが等しい合同、形が等しい相似です。それぞれ X \equiv Y , XY と書きました。同相は X \simeq Y と書きます。記号は \cong でも構いません。

不変量

ところで、幾何学というのはどのような学問なのでしょうか。ミレニアム問題で有名な数学者、アンリ・ポアンカレは次のように言ったそうです。

「数学とは、異なるものに同じ名前をつける技術である」

また、同年代にしてクラインの壺で有名な数学者、フェリックス・クラインは次のように言ったそうです。

幾何学的性質とは、図形に作用する変換によって不変に保たれる性質のことである」

本当にそう言ったかどうかはさておき、要するに幾何学とはパッと見異なる図形たちの中に潜む共通の性質とは何ぞや、と問う学問であるということです。合同であれば、長さや面積などが不変であると言えます。相似であれば、角度や比などがそれに該当します。

では、同相の場合は何ぞや、と問うてみます。

冒頭のクイズが分かった方なら一つはすぐにでも出てくるでしょうか。見た目で理解しやすいのは穴の数です。また、トポロジーに限らない不変量としてオイラー標数が挙げられます。

(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)=2

となるアレです。確か新課程の高校数学ではオイラーの多面体定理として出てきたかと思います。実はこれ、球面(穴の数が0)に同相な多面体における場合に成り立つ等式です。一般に、

(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)=2-2×(穴の数)

となることが知られています。したがって、角ばったドーナツのオイラー標数は0です。適当に穴の開いた多面体を用意して数えてみてもいいかもしれませんね。

このように、ある特定の図形同士の間に存在する変換によって変わらない数学的性質のことを不変量と言います。注意してほしいのは、不変量が一致したからと言って、図形を同じと見なすことができるとは限らないということです。

簡単な例を挙げれば、面積が同じでも形が同じとは限らないということです。ただし、中学生で習った合同条件「三辺相等」「二辺夾角」「二角夾辺」などのように、いくつかの不変量を組み合わせることによって二つの図形を同じと見なせることもあります。

位相幾何学は、このような(トポロジカルな)不変量を扱うことによって図形を見極めようとしています。対象とする図形が変われば、また別の不変量が表れたりします。

ポアンカレ予想

このまま終わってもいいのですが、せっかくポアンカレの名前が出てきたので、元未解決問題、ポアンカレ予想について少しだけお話して終わろうと思います。

ポアンカレの主張した予想は次になります。

「単連結な三次元閉多様体は三次元球面に同相である」

このままでは何のことだかさっぱりなので、一つずつ説明していきます。

多様体というのは、局所的にユークリッド空間と見なせる図形のことです。と言われてもよく分からないのでもう少し噛み砕きます。ユークリッド空間と見なせると言うからには基本的に対称となる図形は適当な位相空間の中に存在しているということを前提としています。

具体的な例として宇宙空間を挙げましょう。その宇宙空間内の多様体である地球(の表面)を考えてください。地球表面をメルカトル図法にて地図に収めようとすれば、その中心はかなり正確な直交座標で表されますが、端っこの方は本来の距離感からかけ離れてしまいます。ただし、このような歪みは、各点毎にその周辺のみを描いた小さな地図をたくさん用意することである程度解消されます。ユークリッド幾何では扱えない球面も、ごく小さな範囲では疑似的にユークリッド幾何っぽく考えることができます。日常的に行っていることですね。まあこれはこれで地図同士が重なった部分はどうするのという話になるんですけど。このように、多様体とは任意の点でその周辺地図を(上手く)描けるような図形のことを指します。

閉、というのは閉集合のことです。境界がくっきりしている程度に思ってください。

次に単連結ですが、物凄く雑な説明をします。まず、ある球面上に点を一つ決めます。紐を持ってその点から出発して適当にぐるっと回ってその点まで戻ってきます。この時、どんな道を辿っても紐の両端を手繰り寄せることで紐を回収できる場合、その球面を単連結と言います。例えばドーナツの穴を一周するように歩いて戻ってくると紐は穴に引っかかって回収できません。つまりドーナツは単連結でないということになります。

これでポアンカレ予想の主張が大体分かりましたね。それから、勘違いのなきよう言っておきますが、普段私たちが目にしているサッカーボール(概ね球体)やテニスボール(概ね球体)は二次元球面です。次元を一つ上げてください。気軽に言ってくれるなという話ですが。ただし三次元多様体は普通の三次元空間内に定義できる図形です。

想像できない次元(文字通り)の話をするのは忍びないので、次元を一つ落とします。「単連結な二次元閉多様体は、通常の球面に同相である」かどうかを見ます。単連結な二次元閉多様体の一番簡単なサンプルは正方形でしょうか。正方形の四辺を伸ばして良い感じに貼り合わせると、二次元球面ができあがります。ただし上記の通り貼り合わせには別の概念が必要です。

では次元を一つ上げてください。(二回目)

概ね理解できたでしょうか。理解できなくてもお話はここまでです。これ以上の説明はしんどいです。それではまた。あ、今更でしょうが冒頭のクイズは3番が正解です。

よくわかる現代数学 位相2「写像の連続」

フラグなんてなかった。

開核と閉包

前回、位相空間の定義と位相空間上の開集合と閉集合の具体例を雑に確認しました。今回は近さを一般化したような概念の近傍について雑に確認します。

この記事では開集合を与えた位相空間に近傍を定義するという流れを踏襲しますが、近傍を定義することにより位相を入れ、その後で開集合を定義するということもできます。

開核

とりあえず、(X,{\mathscr O})位相空間としてみます。X の部分集合 A に含まれる開集合全体の和集合

\displaystyle \bigcup_{O \subset A}O \ \ \ (O:\text{開集合})

を考えると、開集合の公理からこれは開集合であることが分かります。つまり

\displaystyle \bigcup_{O \subset A}O \in {\mathscr O}

こうです。この無限和を新たに A^i と書き、A内部または開核と呼ぶことにします。日本語的に内部の方が理解しやすいかとは思います。

また、A^i の元を A内点と言います。内側にある点だから内点です。

この開核という概念について、位相空間 (X,{\mathscr O}) は次の性質を持ちます。

1.X^i=X
2.A^i \subset A
3.(A \cap B)^i=A^i \cap B^i
4.(A^i)^i=A^i

証明は簡単なので、ここでは記載しません。

閉包

次に、開核と同じノリでもう一つ定義します。位相空間 (X,{\mathscr O}) の部分集合を A とします。今度は A を含む閉集合全体の共通部分を考えます。

\displaystyle \bigcup_{F \supset A}F \ \ \ (F:\text{閉集合})

開集合の公理にド・モルガンの法則を適用してあげれば(閉集合の公理)、閉集合の無限交叉もまた閉集合になることが分かります。つまり

\displaystyle \bigcup_{F \supset A}F \in {\mathscr F}

こうです。特に他で言及していませんが、 {\mathscr F} というのは X閉集合全体のことであると理解してください。

この無限交叉を新たに A^a または \overline{A} と書き、A閉包と呼ぶことにします。与作でもなければ、赤い帽子の配管工でもありません。

また、A^a の元を A触点と言います。A に触れている点なので触点です。

この閉包という概念について、位相空間 (X,{\mathscr O}) は次の性質を持ちます。

1.\emptyset^a=\emptyset
2.A \subset A^a
3.(A \cup B)^a=A^a \cup B^a
4.(A^a)^a=A^a

証明は簡単なので、ここでは記載しません。それからお察しの通り、閉包の小節は開核をほぼコピペしました。楽でいいですね。

ユークリッド空間における開核と閉包

ユークリッド空間と言うと何だか難しいように聞こえてしまいますが、要は普段良く目にする図形を想像してもらえればいいです。たとえば、二次元ユークリッド空間すなわち xy 平面上に、原点を中心とした半径1の円を描きます。

方程式は x^2+y^2=1 でした。

この円盤を位相空間 ({\mathbb R}^2,{\mathscr O}) の部分集合 A とみなせば、A^i はその内側なので、境界線を点線で描いた円盤だと分かります。点線はその境界線を含みませーん程度に思ってください。

f:id:l-m-cocytus-5cube:20181114003341p:plain

こんな感じ。雑お絵かきですみません。

逆に、境界線を点線で描いたような図形に対しては、その閉包を取ると点線の代わりに実線で描いた図形になります。

f:id:l-m-cocytus-5cube:20181114003820p:plain

フォントが酷いことになっていますが、そういうのは無視していただいて大丈夫です。

外部と境界

それから、集合 A の補集合 A^c の内部 (A^c)^i を外部と言い、また、その点を外点と言います。 A の内点でも外点でもない点のことを境界点と言い、その集まりのことを境界と言います。境界はよく \partial A と書かれます。

写像の連続

ここからが位相のしんどいところです(個人差あり)。定義自体はそんなに難しいところはないので、早速見ていきます。

位相空間 (X,{\mathscr O}) の部分集合を N とします。neighborhood の頭文字です。

集合 X の点 a について、aN の内点である時、Na近傍であると言います。特に点 a を含む開集合は全て a の近傍であり、これを開近傍と言います。

また、点 a の近傍全体の集合を近傍系と言い、 {\mathscr N}(a) と書きます。スクリプトフォントだとちょっと見にくいですね。まあ好きな書体でいいです。

stiltszeta.hatenablog.com

過去記事で二つの集合の間に写像を定義できるよという話はしましたね。では次に、その連続性を定義します。

位相空間(X,{\mathscr O}_X)(Y,{\mathscr O}_Y) とします。写像 f:X \to Y が点 x \in X連続であるとは、 (Y,{\mathscr O}_Y) の点 f(x) のどんな近傍 N を持ってきても、f による N の逆像 f^{-1}(N)x の近傍になることを指します。

定義だけ述べてもさっぱりなので具体例を確認します。適当に連続な関数を用意すればいいので、今回は関数 f:{\mathbb R} \to {\mathbb R}f(x)=x^2 にします。下に凸な放物線を思い浮かべてください。どの点でも連続ですが、とりあえず x=2 で上の定義を満たすことを確認します。

f(2)=4 を含むような区間(値域)を取ります。(1,9) とでもしましょう。別に閉区間でも構いません。この時、この逆像(定義域)は f^{-1}\big((0,9)\big)=(1,3)\cup (-3,-1) です。2 \in \big((0,3)\big)^i=(0,3) であるので、これは x=2 の近傍です。4 を含むどんな集合を持ってきても同じことが言えそうですね。ちゃんと証明したければ区間[a,b] とでもして、不等式で示してください。

次に、連続でない関数だとどうなるか見ていきます。反比例は不連続な関数ですが、x=0 において f(0) の値が定義されていないので今回は特別に

\displaystyle f(x)=\left\{\begin{array}{ll}
0 & (x=0) \\
\displaystyle \frac{1}{x} & (other)
\end{array} \right .
とします。まあどんな値でも同じですが。f(0) を含むような区間(値域)を適当に取ってきます。今回は閉区間 [-1,2] とします。この時、逆像(定義域)は f^{-1}\big([-1,2]\big)=[-\infty,-1]\cup \{0\} \cup [\frac{1}{2},\infty] です。これの内部に x=0 が入っている必要がありますが、肝心の内部は 
(-\infty,-1) \cup (\frac{1}{2},\infty) となります。ユークリッド空間において、一点集合の内部は空集合です。ただの点に内部なんてあったもんじゃないよねってことです。するとこいつは x=0 の近傍になりません。仮に f(0)=a としてもここの不連続は覆らないことが分かります。

とまあこんな感じで、ユークリッド空間における普通の関数であれば簡単に確認できました。通常の位相空間で証明の練習をしたければ、そういう問題集があるのでそれ解いてください。

写像の連続まで示したので、次回はその連続性によって保証される位相同型(同相)について記述する予定です。最終回です多分。

一番近くて一番遠い数字

一番近くて一番遠い

一番近くて一番遠い数字というものをご存知でしょうか。ご存知の方は、最後まで温かく見守っていてください。ご存知でない方は、一つずつ丁寧に見ていくのでご安心を。

突然ですが、一番近くて一番遠いと聞くと皆さんは一体何を思い浮かべるでしょうか。高身長スポーツマンと低身長優等生の親友、学園のアイドルと幼馴染の冴えないボク、そういう関係性でしょうか。

劣等感、正反対、すれ違い。そんなフレーズが頭をよぎりますが、今回のお話もある意味ではそういった目に見えないギャップが主旨となっているかもしれません。

直感の効力が及ばない世界がこの先に広がっています。その世界を生き抜くために必要な武器はただ一つ、論理です。

見たことのない道を掻き分け進んだその先、最後まで読んだ後の感想があなたにとって有意義なものとなることを願っています。

※本来ならばお話の舞台は有理数体ですが、今回は簡単な小話ですので自然数全体の集合をメインに見ていきます。

二人の距離は?

二人の距離が近い、と言うと二人の間に何やら親密な関係性があるように感じられます。逆に、二人の距離が遠い、と言うと赤の他人であろうかという推測が立ちます。

ただしそれは外から見た関係であり、二人にとっては物理的な距離がさほど問題にならない場合もあるでしょう。

上で示した例のように、近い、遠い、というのは一般に距離の尺度を表す言葉です。では、その距離というのは一体どのような定義なのでしょうか。

なんとなく、二つの数字が近ければ小さい、遠ければ大きい値を取る、だとか差を取るだとか、三平方の定理でどうのと続ける人がいるかもしれません。

ですが、数学において距離とは以下の性質を満たすもののことを指します。

距離の定義
集合 X の元 x,y,z に対して、x,y の距離 d(x,y) とは以下を満たす。
1.d(x,y) \ge 0
2.d(x,y)=0 \Rightarrow x=y
3.d(x,y)=d(y,x)
4.d(x,y) \le d(x,z)+d(y,z)

この四つさえ満たしていれば、二人の関係性を測る尺度を定義することができます。

のちに二つの距離が登場しますが、それらがこの四つの性質を満たしているかどうかの確認は皆さんへの宿題とします。

いつも通りの二人で

普段、何気なく使っている距離ですが、数学的には名前が付いていて、これをユークリッド距離と言います。

二つの自然数 x,y に対してその距離 d(x,y) を、絶対値の記号 | \cdot | を用いて

d(x,y):=|x-y|

と書くことができました。これは一次元の距離ですが、二次元の距離も定義できますね。

二つの自然数の組 x=(x_1,x_2),y=(y_1,y_2) に対してその距離 d(x,y)を、三平方の定理を用いて

\displaystyle d(x,y):=\sqrt{\left(x_{1}-y_{1}\right)^{2}+\left(x_{2}-y_{2}\right)^{2}}

と書くことができます。三次元以降も同様です。

これは言わば物理的な距離であり、第三者が二人の関係性を邪推するのに用いられます。

いつも通りの距離感、いつも通りの雰囲気。それでも確かに、二人の関係性は変化していきます。彼ら彼女らにしか分からない領域で。

小さなすれ違い

二人の間に、物理的な距離はあまり関係がありません。二人が大切にしているのは、もっと内面的で、本質的な部分です。

ここで、いつも通りではない距離を定義します。二人の本質に迫る、とても大切な距離の一つです。ここからは、少し準備に時間がかかります。

では、とりあえず p素数とします。ここで、適当な自然数 xp で何回割れるかを ord_{p}(x) で表すことにします。これをp進付値と言います。

たとえば p=2 のとき、24=2^3\times3素因数分解できるので ord_{2}(24)=3 となります。0 は任意の p の冪乗で割れると見なすことができるので、ord_{p}(0)=\infty とします。

任意の自然数 x に対してp進ノルム |x|_{p}

\displaystyle |x|_{p}:=\frac{1}{p^{ord_{p}(x)}}

で定義します。もう少し簡単に言えば、自然数 xx=p_{1}^{e_{1}}p_{2}^{e_{2}}\dots p_{i}^{e_{i}}\dots p_{n}^{e_{n}}素因数分解できるとき、p_{i} 進ノルムは \displaystyle |x|_{p_{i}}:=p^{-e_{i}} となります。先の例を流用すると、|24|_{2}=1/8 という感じです。

はい、準備が終わりました。一応補足ですが、注意書きに書いた通り、本当はこれらの概念は有理数体上で定義されます。続いて距離を導入します。

p進距離の定義
自然数 {\mathbb N} の任意の元 x,y に対して、p進距離 d_{p}(x,y)

d_{p}(x,y)=|x-y|_{p}

で定義する。

数の取り得る範囲を自然数に限定すると、p進距離の最大値が 1 となることは確認しておきましょう。

このような、p進付値、p進ノルム、p進距離などが定義された数の体系をp進数と言います。

情報系の人たちが普段使っている二進数や十六進数とは全く異なるので注意してください。

一番遠い二人がすべきたった一つのこと

このp進距離によって、二人の関係が一体どのように測れるのかを見ていきましょう。素数 p を、ここでは p=2 としておきます。

二つの自然数 2425 を考えます。これら二数はユークリッド距離においてその差は 1 なので、最も近い数の組の一つです。しかし、p進距離においてその差が 1 ということは 2 で一回も割ることができないので、d_{2}(24,25)=1 となり、今度は最も遠い数の組の一つになってしまいます。

他の例も見てみると、56-24=32=2^5 なので、p進距離は d_{2}(56,24)=1/32 となります。本来ならかなり離れているはずの数同士が、とても近い関係にあることが分かるかと思います。

当然、56,24 の二数は、素数 p を別の数に変えることでp進距離を 1 にすることは可能です。しかし、24,25 はどのような素数 p を持ってきても、そのp進距離は必ず 1 になってしまいます。

ここに一番近くて一番遠いと呼ばれる仕組みが潜んでいます。たった一つのずれが、大きな歪を生んでしまうことになるのです。

ただし、たった一つのずれはたった一つの歩み寄りで、どんな物差しで測ろうともその距離が 0 になります。

現状維持ではなく歩み寄ることが大切である、そういうことを示唆しているのかもしれませんね。まあ嘘なんですけど。

ファンディスクとはかくあるべし

後日談、ではなく与太話のコーナーです。

今回はp進数の紹介に留めた読み物なので、有用性や本質の一切を説いているわけではありません。が、それで終わってしまっては味気ないので、本質に繋がるヒントとして合同式を挙げておきます。二つの数が素数 p を法として合同とは、その差が p で割り切れるということです。

これ以上は、にわか数学徒が語るには難しいですので。このp進数という概念は数論を勉強する上で避けて通れ得ぬ道です。p進数を修めない数論専攻の数学徒はにわかです(偏見)。つまり私のことです(たった一つの真実)。

直感に頼れない数学の世界はいかがだったでしょうか。お気に召したようなら何よりです。お気に召さなかったならすみません。

それでは、またのご来訪をお待ちしております。

よくわかる現代数学 位相1「位相」

位相

タイトルに位相と書きましたが、分野として位相が単独で語られることはほとんどありません。もう少し言うと、位相という表題の参考書はそれほど多く存在しないということです。基本的には集合と位相だとか位相空間(論)位相幾何学といった参考書が大半を占めます。

今並べた三つは前から順に抽象的で基礎的な理論をベースとしていますので、丁寧に勉強するのであれば紹介した順に取り組むといいのではないでしょうか。本にもよるとは思いますが。

位相とは

位相とはざっくり言えば、元々はユークリッド空間のような幾何学的な対象に対してのみ定義されていた開集合や閉集合、距離といった基本的な概念を抽象化してもっと一般的な集合に対しても同じように開集合やら何やらを定義できるようにしようぜ、的な試みの結果生まれた概念です。

数学史に関してはあまり詳しくないので、下手に起源だとか起こりだとかいう話をすると怒られるためこの辺にしておきます。

集合と位相という表題で察しがつきますが、位相とは集合とセットにして用いられる概念です。以下集合の復習です。

stiltszeta.hatenablog.com

さて、過去記事に書いた通り、集合の集まりを一般に集合族と言いました。ここで空でない集合 X に対し、その部分集合を全て集めた集合族を冪集合と言い、{\mathscr P}(X) と書きます。大文字のPです。冪(power)なので。

{\mathscr P}(X) の部分集合、即ち集合 X の部分集合を適当に集めた集合族 {\mathscr O} を考えます。たとえばサイコロの出目 X=\{1,2,3,4,5,6\} であればその部分集合族 {\mathscr O} を以下のように設定できます。

{\mathscr O}=\left\{\phi,\{1,2\},\{2,4,6\},X \right\}

\phi空集合です。以前記号を設定し忘れたのでここで書いておきます。一般的に \phi を使うことが多いですが、0に斜線を引いたものも見かけます。形状的には言うて誤差です。高校の時に勉強した含む(・・)の記号を使うと

{\mathscr O} \subset {\mathscr P}(X)

と書けますね。

それでは改めて、ある集合 X に対してその冪集合を {\mathscr P}(X) とします。ここで、{\mathscr P}(X) の部分集合 {\mathscr O} が以下を満たす時、{\mathscr O}位相と呼ぶことにします。実は位相の同値な定義は一通りではありませんが、ここではとりあえず一つだけ扱うことにします。多分。

位相の(開集合による)定義
1.\phi,X \in {\mathscr O}
2.(有限交叉) \forall O_{1},O_{2} \in {\mathscr O} ならば O_{1} \cap O_{2} \in {\mathscr O}
3.(無限和)  \forall \left\{O_{\lambda}\right\}_{\lambda \in \Lambda} \subset {\mathscr O} ならば \displaystyle \bigcup_{\lambda \in \Lambda}O_{\lambda} \in {\mathscr O}

ここで言う \Lambda とは添字集合のことで、今回みたいに無限個の何かを用意して番号付けしたい場合に気軽に使える記号だと思ってください。まあ問題がそこでないのは見てもらえれば分かるかと思います。

なんかこう全体的に訳が分かりませんね。普通に微積線形代数を履修すれば無限和程度の処理はどうとでもなりますが、これこれを満たすものが位相ですと言われてもパっとするものが何一つありません。

ちなみにですが、括弧書きで開集合によるとしたように、この定義は開集合の公理と呼ばれることもあります。ド・モルガンの法則から閉集合の公理も同様にして記述できることを一応頭に入れておいてください。それから、開集合(open set)なので大文字のOですね。

有限位相空間

このまま終わってしまえば訳が分からないままなので、具体例で見ていきます。

上記の条件付けにおいて定義された集合 X位相空間と言い、(X,{\mathscr O}) で表します。有限位相空間とは集合 X が有限集合である位相空間のことを指します。そのまんまです。

というわけで有限集合を考えます。まずは手始めにこちら。

X=\{a\}

ふざけてんのかという感じですが、これくらい極端なところから始める癖をつけておくと今後役に立つ可能性があります。可能性があるというだけです。

さて定義を順番に確認していきます。そもそも真部分集合が空集合を除いて存在しないので条件2と条件3は無効というか自明ですね、条件1が成り立つのも自明なのでクリアです。

お次は

X=\{a,b\}

について調べていきましょう。元の個数が2なので冪集合の元の個数は2の2乗で4となります。

\phi , \{a\} , \{b\} , X=\{a,b\} \in {\mathscr P}(X)

はい四つですね。部分集合族を考えればよいわけですが、条件1から自動的に \phi , \{a,b\} の二つは  {\mathscr O} に属することとなります。もちろん、{\mathscr O}=\left\{\phi , \{a,b\} \right\} とすれば、これは先の一元集合と同じ状況ですので(X,{\mathscr O})位相空間となります。実はこれに名前が付いていて、密着位相と言います。ほとんど使いませんが。

{\mathscr O}=\left\{\phi , \{a\} , \{a,b\} \right\} とするとどうでしょうか。

\phi \cap \{a\}=\phi \ , \ \{a\} \cap \{a,b\}=\{a\} \ , \ \phi \cap \{a,b\}=\phi

より、これらは全て {\mathscr O} に入るので条件2も大丈夫そうですね。他方で

\phi \cup \{a\}=\{a\} \ , \ \{a\} \cup \{a,b\}=\{a,b\} \ , \ \phi \cup \{a,b\}=\{a,b\} \ , \ \phi \cup \{a\} \cup \{a,b\}=\{a,b\}

となるので、同様に条件3も満たしてくれそうです。定義に無限和と書きましたが、有限集合なので有限個の部分集合のみ確認すればいいことになります。というわけで {\mathscr O}=\left\{\phi , \{a\} , \{a,b\} \right\}位相空間 (X,{\mathscr O}) をなすことが分かりました。

{\mathscr O}=\left\{\phi , \{b\} , \{a,b\} \right\}a,b を入れ替えてあげれば同様の議論で済むので大丈夫ですね。

{\mathscr O}=\left\{\phi , \{a\} , \{b\} , \{a,b\} \right\}={\mathscr P}(X) も確認しなければいけない項目が少し増えますが、まあほとんど同じなので議論は省略します。まあ定義から冪集合は全ての部分集合を内包しているのでそれで自明な位相空間 \left(X,{\mathscr P}(X)\right) を作ることができます。これを特別に離散位相と言います。

つまり今回、位相空間が全部で四つあることが分かるかと思います。複数あっても大丈夫です。心配しないでください。

以下同様にして X=\{a,b,c\} を見ていきましょう。というか、これはお任せします。さあ紙とペンを出してください。








~thinking time~








……どうですか?できましたか?全部で29個ですよ?過不足ありませんか?

さすがに355個を調べ上げさせるような鬼畜ではありませんので、次行ってみようとは言いませんよ?

ところで X=\{a,b,c\} についてですが、たとえば {\mathscr O}=\left\{\phi, \{a\}, \{b\}, \{a,b,c\} \right\} とすると、\{a\} \cup \{b\}=\{a,b\} となり、これは {\mathscr O} の元ではないので条件を満たさないことになります。

その他の位相

有限でない位相空間としては、今回特に開集合の公理として定義しているので、n 次元ユークリッド空間 {\mathbb R}^{n} の開集合系(開部分集合全体){\mathscr O} を位相とした位相空間 \left({\mathbb R}^{n},{\mathscr O}\right)距離空間 (X,d) 上定義される開集合系などが挙げられます。

また、空でない集合 A \subset X について {\mathscr O}_{A}:=\{A \cap U \ | \ U \in {\mathscr O}\} とすると、これは集合 A の位相となり、A 上の {\mathscr O} に関する相対位相と言います。この時、位相空間 (A,{\mathscr O}_{A})位相空間 (X,{\mathscr O}) の部分空間と言います。

開集合と閉集合

前節で散々開集合と言ったので今更ではありますが、改めて位相空間における開集合の定義をしておきます。開集合があるということは閉集合もあるということになります。

(X,{\mathscr O})位相空間とする時、
1.O \in {\mathscr O} なる X の部分集合 OX の開集合と言い、{\mathscr O}X の開集合系と言う。
2.F=X-O \ \ O \in {\mathscr O} なる X の部分集合 FX閉集合と言う。

閉集合(closed set)なのに何で F なんでしょうね、理由は忘れました。どなたか知っていたら教えてください。もちろん、閉集合C閉集合系を {\mathscr C} と書く流派も存在します。

X=\{a,b\},{\mathscr O}=\left\{\phi, \{a\},\{a,b\}\right\} とすれば、開集合は

\phi \ , \ \{a\} \ , \ \{a,b\}

となり、閉集合はその補集合なので

\{a,b\} \ , \ \{b\} \ , \ \phi

となります。よく見ると \phiX が開集合の欄にも閉集合の欄にもいますが、位相空間論的に言えばこういうことはごくごく自然にあり得ます。これを開かつ閉集合などと言い、英語だと closed-open set だとか、少し洒落を利かせて clopen set と言ったりします。定義から明らかですが、任意の位相空間に対してその空集合と全体集合は開かつ閉になります。

次回は、近傍系及び写像の連続性、空間の連結性の予定です。あくまで予定です。予定は変更するために存在します。

ガチャは悪い文明

ガチャとは


古くはモバゲーなどに見られる、ゲーム内通貨(以下、石)を用いてランダムにアイテムを手に入れるシステムのことを指します。まあ、知ってるとは思うんですけど。


昨今のソシャゲにおいて何かと話題に上りやすく、確率表記の件でガチャが差し止めになったり、所謂天井が実装されたりしています。


ぶっちゃけ基本的に期待値通り出てくれないので、私が個人的に嫌っているだけ。許すまじ。ガワ(スキン)にはお金を入れるので許してくださいなんでも島村卯月


私怨はともかくとして、今回の主旨は「ガチャの確率はどの程度であるか」及び「それは商売として適切な設定か」の二つです。結論から言えば私は適切でないと思っています、ガチャ嫌いなので。ガチャ嫌いなので。(大事なこと以下略)

ガチャの確率と期待値


そんなわけで期待値の計算をしていきたいと思いまーす。今回、ガチャのサンプルとして用意したのは「アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ(以下、デレステ)」、「グランブルーファンタジー(以下、グラブル)」、「アズールレーン(以下、アズレン)」の三つです。


私のトゥイッターランドを見てる人なら分かるとは思いますが、主に自分がアクティブしてるソシャゲです。もう一つあるんですけどソシャゲの宣伝をしに来たわけではないので割愛。

ガチャの確率


確率表記は以下の通りです。


f:id:l-m-cocytus-5cube:20180829153250p:plainf:id:l-m-cocytus-5cube:20180829153316p:plainf:id:l-m-cocytus-5cube:20180829153345p:plainf:id:l-m-cocytus-5cube:20180829153359p:plain


デレステは期間限定の3%(及びピックアップキャラ二人の0.8%)を、グラブルは期間限定ガチャがフェスに被るので6%を、アズレンは恒常の7%(及びピックアップキャラの2%)を参照します。


とりあえず雑に「最低一回当たる確率」を計算したものがこてぃら ↓ になります。


回数 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180 190 200 210 220 230 240 250 260 270 280 290 300
デレステ SSR 3% 0.03 0.262575873 0.456205657 0.598992931 0.704287713 0.781934625 0.839193331 0.881417282 0.912554243 0.935515389 0.952447492 0.964933633 0.974141215 0.980931108 0.985938139 0.989630445 0.99235324 0.994361094 0.995841735 0.996933595 0.997738759 0.998332506 0.99877035 0.999093226 0.999331323 0.999506902 0.999636377 0.999731856 0.999802264 0.999854185 0.999892472
PU 0.8% 0.008 0.077180588 0.148404333 0.214130987 0.27478482 0.330757354 0.382409895 0.430075862 0.474062942 0.514655074 0.552114281 0.586682364 0.618582462 0.648020492 0.675186477 0.700255776 0.723390211 0.744739118 0.764440303 0.782620939 0.799398382 0.814880933 0.829168532 0.842353405 0.854520662 0.865748843 0.876110426 0.885672296 0.894496175 0.902639023 0.9101534
グラブル SSR 6% 0.06 0.461384886 0.709893759 0.843744394 0.915838369 0.954669273 0.975584186 0.986849273 0.99291682 0.996184892 0.997945125 0.998893213 0.999403868 0.999678914 0.999827058 0.999906851 0.999949829 0.999972977 0.999985445 0.99999216 0.999995777 0.999997726 0.999998775 0.99999934 0.999999645 0.999999809 0.999999897 0.999999944 0.99999997 0.999999984 0.999999991
アズレン SSR 7% 0.07 0.516017693 0.765761126 0.886632529 0.94513215 0.973444931 0.987147817 0.993779771 0.996989519 0.99854298 0.999294828 0.999658709 0.999834821 0.999920056 0.999961309 0.999981274 0.999990937 0.999995614 0.999997877 0.999998973 0.999999503 0.999999759 0.999999884 0.999999944 0.999999973 0.999999987 0.999999994 0.999999997 0.999999999 0.999999999 1
PU 2% 0.02 0.182927193 0.332392028 0.454515681 0.554299596 0.63583032 0.702446857 0.756877419 0.80135115 0.837689426 0.867380444 0.891640167 0.911462127 0.927658112 0.94089141 0.951703979 0.960538634 0.967757191 0.973655278 0.978474444 0.982412053 0.985629367 0.988258147 0.990406051 0.992161045 0.993595003 0.994766651 0.995723973 0.996506175 0.99714529 0.997667494


計算式は

\displaystyle 1-\left\{1-\left(\text{確率}\right)\right\}^{ \ \ \ \left(\text{回数}\right)}

となります。


どうせ10連するので10刻みなのと、天井があるので300回までの計算にしてあります。お察しの通りエクセルでガサーっとやるだけなのでもっと詳しく知りたければ適当にやってください。あと、一瞬1とかいう数字が見えますが、処理の都合上そう書かれているだけです。


まあピックアップは地獄ですね。200連しても2割の確率で外すってそりゃねえぜ、ハイドロポンプかよ。50連ならせいぜいハサミギロチンですね。つまり外す。

デレステPU、300回のところを見てもらうとおおよそ91%と書いてあります。ざっくり直感的な話をすれば、約9%の人がお目当てのキャラを引けていないので、天井はこの大損こいた9%の人たちのための制度と言えます。この数字が適切かもまた議論の余地がありそうです。

ガチャの期待値


SSRの枚数の期待値は確率に試行回数をかけてください。そういう風にできています、独立試行なので。


ピックアップの闇が深いということが分かったので、次に「引ける回数の期待値」を算出します。デレステアズレンでそれぞれピックアップ(0.8%と2%)の一点狙いをします。引いたら撤退です。


計算式は

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\left\{1-\left(\text{確率}\right)\right\}^{ \ \ \ n-1}\times \left(\text{確率}\right)\times n

です。この手のガチャは無限に引けない可能性があるので和の範囲を一応 1 から \infty までとしていますが、昨今のソシャゲは天井があるので 300 までとしても構いません。言うて誤差。


もちろん計算機に投げてもいいですが、これは真ん中の共通因子で括れば和の中身が(等比)×(等差)の形になるので高校数学で計算することができます。


というか確率分布の話を知っていればこの期待値は

\displaystyle \frac{1}{\left(\text{確率}\right)}

じゃろでおしまいなんですけど。そういう風にできています、独立試行なので。(二回目)


せっかくうわ期待値とか懐かし計算したろなんて思っていた諸君には申し訳ないがネタバレをしたので、あとは代入するだけです。


するとどうですかね、デレステのピックアップが125回、アズレンのピックアップが50回と出てきます。もちろん期待値なので振れ幅はありますが、この回数分ガチャを引くことを前提に設計されている、ということになります。言い換えると「基本的に125回くらいで出るけど運が良ければ10回で出るし、最悪300回引けば好きなのあげるよ」って感じかな、多分。


残念ながら私はガチャのためにコンビニへ駆け込んであいちゅんかーどを摑み取りしたことがないので何とも言えませんが、そういった経験のある諸兄らからするとどう見えるんでしょうか。トラウマが蘇るんでしょうか、そいつぁすまねぇことをしたな。


先ほども言いましたが上振れ下振れがあるので体感にそぐわない結果かもしれませんが、一応理論上この数字だよってことを理解してもらえると嬉しいです。計算が間違っていなければですが。間違ってたらおせーて。というか私も基本的に下振れの民なので、はあホントかよふざけんなもっと低いだろとか思ってます。

ガチャの設計


粗方必要なデータを算出したので、次にガチャのお値段とお目当ての物の価値、ガチャ周りの設計などの話に移っていきます。

ガチャのお値段


はい、というわけで各ソシャゲにおける石の値段がこれ ↓ 。


f:id:l-m-cocytus-5cube:20180901175450p:plainf:id:l-m-cocytus-5cube:20180901175524p:plainf:id:l-m-cocytus-5cube:20180901175534p:plainf:id:l-m-cocytus-5cube:20180901175539p:plain


がめつい猫が何か喋っていますが無視してください、普通にスクショミスっただけです。ところでグラブルコインって何でこんな端数なんですかね、キリが悪過ぎないか。


ここからガチャ単価を計算するわけですが、別にこのソシャゲは良心的だとかこのソシャゲはオワコンだとか言うつもりはありません。ガチャは等しくクソだからです。おっといっけねつい本音が。


条件は全て統一で、「最も単価が低くなる取引きを行う」ようにします。上の画像で言えば大体一番お高いやつを買います。あとはお馴染みエクセル先生に投げて出来上がったものがこてぃら。


ガチャ一回(個) 必要な石(個) 石単価(円/個) ガチャ単価(円)
デレステ 石250個 250 1.166666667 291.6666667
グラブル 石300個 300 1.030027933 309.0083799
アズレン キューブ2個 54.54545455 1.324324324 131.8304668
資金1500 45


一応アズレンには所謂シルバーガチャみたいな少し少ない資金で回せるガチャがありますが、期間限定やピックアップ系は基本的にそちらではないので無視します。私たちが求めているのは今しか手に入らないあの娘なんや。


が、ピックアップのあの娘を引きたければ三万円用意しろ、と運営は受話器越しにそう伝えて一方的に通話を切ってしまうのです。なんてこったい、そいつぁひでぇや。なるほど確かにこれはコンビニに駆け込むしかない。(錯乱)


しかも運が悪いと九万円を掠め取られるという事態に。なんやねん、この阿漕な商売は。えっそれ普通に四泊五日で旅行とかできません???……とまあ、ガチャのお値段はそんな感じ。

お目当ての物の価値


価値、とか仰々しいこと書いてありますが、要は引くのにおいくらかかりました?って話です。無料10連で来ましたとかリプしてくる奴は地獄に落ちていいよって話でもあります。


本音はさておき、まず前提として我々人間は有限回しかガチャを回すことができません。たとえ肉体が滅びても精神さえ生き残っていれば俺はガチャを引き続けるッッッ!!って人は勝手にすればいいと思いますが、それいつゲームするねん引いてばっかやないか。


試行が有限という制限である以上、お目当てのキャラが引けないという事態はおおいに起こり得ることです。よしんば引けたとしてもそれが期待値通りの数字である可能性は限られています。価値が変動する、それすなわち時価です。何でガチャの話して時価とかいう単語が出るんだよ。


市場価格でもマーケットプライスでも何でもいいですが、キャラクターの価値が変動し、更にその価値は人が介在する余地がありません。全ては確率の赴くままです。つまり、人間の手でその価値の幅をある程度決めてあげる必要があります。それが天井という制度です。青天井とかいう笑えないジョークはなしにしましょう。

ガチャ周りの設計


前節のお話から繋がります。天井という制度です、と言いましたが別に天井である必要はありません。他のソシャゲでは、まず無料でガチャを回してその結果を見てお金を払うかどうかを決める、というシステムがあります。


自分の意志で(石だけに(寒))課金をし、欲しい物が確実に手に入る、良いシステムだと思います。ガチャを引く手間が謎過ぎて、それ素直にショップ販売すればええんちゃう?って私は思ってしまいますが。ガチャの引き方にもうまくできた何かがあるとは思うので、あまり大きな声で言うと恥をかくだけかな、多分。


箱ガチャ(ボックスガチャ)、という形式を取ってもいいと思います。ガチャの中身が有限個でラインナップも決まっているというやつです。古戦場のトラウマを思い出した人はすぐさま心療内科に罹ってください。


もちろん普通にサイゲお得意の天井でもいいでしょう。正直設定がシビアだとは思っているので、ちゃんと数学できる人が一人はいた方がいいと思いますが。

最後に


益体もない言い方をすれば、まあゲームなので好きにしたら?って感じです。ただ、価値の上限を決定する制度は必須だと思っています。基本運に恵まれないので期待値を適正価格と同じ値段に設定するなら買わせてくださいともなります。実際、販売形式にすると、たとえ無償石(配付石)が使えても炎上するんだろうなあという気はしてしまいますが。搾取だの何だのって。人の原罪かな??違うか。


貯めた石の50連くらいで引けた時のお得感は、まあ多分これがガチャの醍醐味なんだろうってなりますし、それはそれでいいんじゃないでしょうか。


まあ、何にせよ難しいところではあると思いますし、別に私は開発でも運営でもないので、そういった営みができるのは素直に凄いと思います。ソシャゲがサービスを終了するという報告を見るたび、終わっちゃうのかあという気持ちになります。長いこと運営して長いことプレイできた方がそりゃ楽しいもんね。


ガチャはお金に直結するコンテンツなので当然大きなリスクが付き纏います。そのリスクに対して向き合いながらゲームの運営をしてほしいなあ、と私は思います。


私の主張は以上となります。駄文に付き合ってくださり、ありがとうございました。

修論アーカイブス 数論4「ディリクレのL関数」

ディリクレのL関数

前回も言った通り、ディリクレ指標を用いてリーマンゼータ関数の一般化を与えていきます。

タイトルにもあるディリクレのL関数とは、ディリクレ級数の特別な場合を指しています。ディリクレ級数とは数論的関数 a(n) を用いて

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{a(n)}{n^s}

の形で書ける級数のことです。数論的関数とは定義域が正の整数で値域が複素数となる関数で、特にそれ以外の性質は指定しません。例えば、複素数\{a_{n}\}n \to a_n なる数論的関数と読むことができます。ぶっちゃけあまり出てこないので無理に覚える必要はありません。この数論的関数をディリクレ指標で置き換えたものがディリクレのL関数となります。

ディリクレの L 関数
\displaystyle L(\chi,s)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\chi(n)}{n^s}

あるいは単にL関数と言ったりします。ゼータ関数の一般化は様々ありますがこれは歴史的にも古い関数の一つとなっていて、比較的取り組みやすい部類に入るかと思います。この定義において \chi(n)=1 \ \ (\forall n \in {\mathbb N}) とすればリーマンゼータ関数になります。このような指標を主指標と言ったりします。

L関数のオイラー積表示

次に、L関数のオイラー積表示を考えていきましょう。とは言ってもやること自体はゼータ関数とほとんど変わらないので、基本的な議論は焼き回しです。楽でいいですね。

stiltszeta.hatenablog.com

過去の記事にある通り、L関数も直感的には素因数分解で問題ありません。

\displaystyle 
\begin{eqnarray}
 L(\chi,s)&=&\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\chi(n)}{n^s} \\
&=&\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-\chi(p)/p^s} 
\end{eqnarray}

こうなってくれたらいいなあ、嬉しいなあ、という感じなわけですが、一つ確認しておかなければならないことがあるので、それを素因数分解の形で見ていきます。ゼータ関数の時はこうなります。

\displaystyle 
\begin{eqnarray}
 \zeta(s)&=&\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s} \\
&=&\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-1/p^s}  \\
&=&\left(1+\frac{1}{2^1}+\frac{1}{2^2}+\dots\right)\left(1+\frac{1}{3^1}+\frac{1}{3^2}+\dots\right)\dots \left(1+\frac{1}{p^1}+\frac{1}{p^2}+\dots\right)\dots
\end{eqnarray}

L関数だとこうなります、というかこうなってほしいです。

\displaystyle 
\begin{eqnarray}
 L(\chi,s)&=&\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\chi(n)}{n^s} \\
&=&\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-\chi(p)/p^s}  \\
&=&\left(1+\frac{\chi(2)}{2^1}+\frac{\chi(2)^2}{2^2}+\dots\right)\left(1+\frac{\chi(3)}{3^1}+\frac{\chi(3)^2}{3^2}+\dots\right)\dots \left(1+\frac{\chi(p)}{p^1}+\frac{\chi(p)^2}{p^2}+\dots\right)\dots
\end{eqnarray}

例えば無限和において n=4 の項は \chi(4)/4 となるはずなので、\chi(2)^2=\chi(2^2)=\chi(4) であれば問題ないですね。定義から言えばそりゃそうじゃろって感じですが、不安になった方は

stiltszeta.hatenablog.com

過去記事でディリクレ指標の定義2.を確認してください。この定義がディリクレ指標を完全乗法的関数であると決定付けています。完全乗法的とは任意の二数に対してその乗法性が認められることです。

前回説明しそびれましたが、乗法的関数とは二数が互いに素である場合においてその乗法性を認める関数なので、L関数のオイラー積表示を与えたければ完全乗法性が必要になってきます。逆に言えば、数論的関数が(完全)乗法的関数であればそれに対応したディリクレ級数オイラー積表示を与えることができます。

ここで確認した以外はリーマンゼータ関数と同様にしてできるので、今回は割愛します。

ディリクレ級数オイラー積表示

というわけで、小休止としてこんな級数オイラー積表示があるんだよっていう紹介をしようと思います。これらのオイラー積表示が役に立つ場面はあまり多くありませんが、紹介する数論的関数がしばしば出てきます。多分。

1.a(n)=d(n) (約数関数)

約数関数 d(n) は、n の約数の個数を示しています。例えば、d(1)=1,d(2)=2,d(6)=4 という感じです。これは完全でない乗法的関数になるので(証明略)、オイラー積表示を与えることができます。またべき乗に対して、d(p^k)=k+1 となります。

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{d(n)}{n^s}=\prod_{p:\text{素数}}\left(1+\frac{2}{p^s}+\frac{3}{p^{2s}}+\frac{4}{p^{3s}}+\dots\right)=\zeta(s)^2

いくつか重要な式変形を省きました。どうしてこうなるのかは、実際に手計算して確かめてみてください。

2.a(n)=\mu(n)メビウス関数)

メビウス関数 \mu(n) は以下ような関数を指します。

平方因子を持つ、というのは 1 以外の平方数で割り切れることを言います。まあ、定義だけ書いてもさっぱりなので具体的に計算する方が手っ取り早いでしょう。

べき乗 a^n \ (n>1) は平方因子を持つので \mu(a^n)=0eg. \ 4=2^2,27=3^3
素数 p は自身でのみ素因数分解ができるので \mu(p)=-1
10=2 \times 5素因数分解できるので \mu(10)=2

これも m,n が互いに素であれば乗法的(\mu(mn)=\mu(m)\mu(n))ですが、互いに素でない場合その積は平方因子を持つので完全乗法的関数にはなりません。証明は約数関数より簡単だと思います。

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{\mu(n)}{n^s}=\prod_{p:\text{素数}}\left(1-\frac{1}{p^s}\right)

これも例により式変形を省きました。まずは無限和を書き下してからこうなることを確かめてみてください。ところで、この右辺の形、どこかで見たなあという気分になりますよね?なりますね?なってください。いいですね、ページ上部、リーマンゼータ関数オイラー積表示のところですね。つまりこの式は更にこう変形できるということです。

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{\mu(n)}{n^s}=\prod_{p:\text{素数}}\left(1-\frac{1}{p^s}\right)=\frac{1}{\zeta(s)}

こいつぁすげぇや。

算術級数定理への道程

お忘れかもしれませんが、私たちは今算術級数定理すなわち、算術級数内に素数が無限個存在することの証明をしようとしているところでした。算術級数

a \ ,a+q \ ,a+2q \ ,\dots

としておきます。この時、それに対応するように指標 \chi を、法を q とするディリクレ指標とし、L関数を L(\chi,s) とします。最終的に示したいことはゼータ関数の時と変わりませんが、定理を示す際に必要な補題を一つ紹介します。

主張がシンプル過ぎて見栄えが悪いですね。こういう時、どうしたらいいか教えてください。コード付きで。

冗談はさておき、この補題を示すことができれば算術級数定理の八割が終わったようなものです。

ディリクレ指標の性質

それでは補題の証明に向けて、前回説明し忘れた(おい)ディリクレ指標の性質から入りたいと思います。定義は過去記事を参照してください。

ディリクレ指標の特別な場合に、以下のようなものがあります。n を法とするディリクレ指標 \chi_{0} について、

\displaystyle 
\chi_{0}(a)=\left \{\begin{array}{11}
1 & (a\text{が}n\text{と互いに素}) \\
0 & (other)
\end{array} \right.

これを自明な指標あるいは単位指標と言います。

ところで、指標を扱うにあたってその直交性は非常に重要な概念になってきます。今回はディリクレ指標に関してのみ言及しますが、本来であれば一般の指標及びその指標群に対して言えるのでディリクレ指標の性質はあまり関与せず示すことができます。

さて、改めてn を法とするディリクレ指標を \chi : \left({\mathbb Z}/n{\mathbb Z}\right)^{\times} \longrightarrow {\mathbb C}^{\times} と書きます。ついでにこのような法 n の指標の集まりを \hat{G} とします。これを指標群と言います。また、\varphi(n)n 以下で n と互いに素な自然数の個数とし、これをオイラーのトーシェント関数(あるいは単にオイラー関数)とします。

すると、巡回群 \left({\mathbb Z}/n{\mathbb Z}\right)^{\times} の元はいずれも n と互いに素な数を集めてきたものなので、この位数(元の個数)は \varphi(n) となります。

直交関係式
\displaystyle \begin{eqnarray}
(1) \ \sum_{a=1}^{n}\chi(a)&=&\left \{\begin{array}{11}
\varphi(n) & (\chi =\chi_{0}) \\
0 & (\chi \neq \chi_{0})
\end{array} \right. \\
(2) \ \sum_{\chi \in \hat{G}}\chi(a)&=&\left \{\begin{array}{11}
\varphi(n) & (a=1) \\
0 & (a\neq 1)
\end{array} \right.
\end{eqnarray}

証明)(2)式は(1)式の双対を取ればいいので今回は省略します。双対も一記事書けそうな概念なのでまた書いたらリンクを貼ります(多分)。(1)式は自明な指標の場合には先の説明及び定義から明らかですね。n と互いに素な数をカウントするだけの和と化します。\chi が非自明な場合を考えていきます。

ここで、b \in \left({\mathbb Z}/n{\mathbb Z}\right)\chi(b) \neq 1 なるものが存在し、その乗法性及び和のわたり方から

\displaystyle \chi(b)\sum_{a=1}^{n}\chi(a)=\sum_{a=1}^{n}\chi(ab)=\sum_{a=1}^{n}\chi(a)

が言えるので、

\displaystyle \left(\chi(b)-1\right)\sum_{a=1}^{n}\chi(a)=0

\chi(b) \neq 1 から和が0となり、主張が示されました。\Box

次回は上記の補題をわちゃわちゃやっていきます。

修論アーカイブス 数論3「ディリクレ指標」

算術級数定理

前回の記事

stiltszeta.hatenablog.com

の続きです。

準備1:素数が無限個存在することの別証明

前回、リーマンゼータ関数オイラー積表示を与えました。今回はそれを用いて別証明を示していきます。

\displaystyle \zeta(s)=\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-p^{-s}}

の両辺の対数を取ると、s>1 において

\displaystyle \log{\zeta(s)}=\log{\prod_{p:\text{素数}}\left(1-p^{-s}\right)^{-1}}=-\sum_{p:\text{素数}}\log{\left(1-p^{-s}\right)}

更に対数関数のテイラー展開から、

\displaystyle \text{(与式)}=\sum_{p:\text{素数}} \ \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{np^{ns}}=\sum_{p:\text{素数}}\frac{1}{p^s}+\sum_{p:\text{素数}} \ \sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{np^{ns}}

となります。s \to 1 とすると右辺の第一項が素数の逆数の和になるので、第二項が収束するならば第一項が発散することになります。左辺は当然発散します。ちなみにですが、最後の式変形は実質的に無限和の順序を入れ替える行為なので、細かい議論は複素関数論などの教科書を漁ってください。

ところでこのオイラー積表示を与えたのちに対数を取るという手法はゼータ関数論の世界ではよく使われるので、覚えておくことを強く推奨します。少しだけ話を付け加えると、両辺を微分した時、左辺に  \zeta(s)^{\prime} / \zeta(s) の項が出てきますが、この項が被積分関数の因子として偏角の原理に現れるからです。

さて、件の第二項から出発してその収束性を考えていきましょう。二重和のうち、内側の和(変数が n の方)を先に変形します。

\displaystyle 
\begin{eqnarray}
 \sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{np^{ns}}&<&\sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{2p^{ns}}=\frac{1}{2p^{2s}}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{p^{ns}}=\frac{1}{2p^{2s}}\frac{1}{1-\frac{1}{p^s}} \\
 &<&\frac{1}{2p^{2s}}\frac{1}{1-\frac{1}{2}}=\frac{1}{p^{2s}}
\end{eqnarray}

となるので、

\displaystyle \sum_{p:\text{素数}} \ \sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{np^{ns}}<\sum_{p:\text{素数}}\frac{1}{p^{2s}}<\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k^{2s}}<\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k^2}=\frac{\pi^2}{6}

と、第二項が収束することが示されました。よって、素数の逆数の和が発散することから素数が無限個存在することも言えます。\Box

準備2:ディリクレ指標

さて、算術級数定理を示すための準備として指標(特にディリクレ指標)という概念を用意します。指標自体は、ある群からある体への特殊な関数の総称だと思ってもらって大丈夫です。数論で主に議論されるのは乗法的指標と呼ばれる類のもので、群準同型となる関数です。表現論でも指標という言葉が出てきますが、あちらは表現行列のトレースを取ったものになります。

群準同型とは群について準同型、つまり群の演算構造を保つことを指します。どういうことかと言うと例えば、一般的な加法を入れた加法群 {\mathbb R} と一般的な乗法を入れた乗法群 {\mathbb R}_{>0} に対して指数関数 e :{\mathbb R} \longrightarrow {\mathbb R}_{>0}e^{(a+b)}=e^a \times e^b となる、みたいな感じです。

さて、この乗法的指標のうちディリクレ指標 \chi は以下の性質を満たすものを言います。

ディリクレ指標
整数から複素数への関数 \chi で、ある自然数 N に対して
1.N を法として  a \equiv b ならば  \chi(a)=\chi(b)
2.\chi(ab)=\chi(a)\chi(b)
3.\chi(1)=1
4.aN が互いに素でなければ \chi(a)=0

合同式はいいですかね。N を法としてを\mod N などとも書いたりしました。N で割った余りが同じだよっていうアレです。ここでついでに、よく用いられる有限な乗法群についてお話しておこうと思います。本来ならば剰余類と呼ばれるところから始めないといけないですが、今回は簡単に済ませます。これで一記事書けるので、また書いたらリンクを貼っておきます。

簡単のため、N=4 としておきます。この時、5=4 \times 1+1 より 5 \equiv 1 \mod 4 と書けますね。またこれの他にも 9,13,17,\dots1 と合同であり、余りの計算をする上では同じ数字と見なすことができます。このようにして整数を同じと見なせるもの同士でまとめると、最終的に 0,1,2,3 の4グループに分かれます。これらを改めて

\overline{0}=\{\dots,0,4,8,\dots\}
\overline{1}=\{\dots,1,5,9,\dots\}
\overline{2}=\{\dots,2,6,10,\dots\}
\overline{3}=\{\dots,3,7,11,\dots\}

と書き直します。負の数も仲間に入れてあげましょう、せっかくなので。この数字の集まりを集めたものがこちらになります。

{\mathbb Z}/4{\mathbb Z}:=\left\{ \overline{0},\overline{1},\overline{2},\overline{3} \right\}

これは環の性質は満たしているのでこのまま使ってあげてもいいんですが、ディリクレ指標が乗法性を仮定しているので乗法を見ていきます。すると、\overline{2}\times\overline{2}=\overline{0} となり、零因子がこの集合にあることが分かりました。このような掛け算をするには少し都合が悪い元を抜いてあげると残るのは単元だけになります。

※単元のお話はこてぃら↓
stiltszeta.hatenablog.com

するとどうなるかというと、

\displaystyle \left({\mathbb Z}/4{\mathbb Z}\right)^{\times}:=\left\{\overline{1},\overline{3} \right\}

こんな感じになり、これを {\mathbb Z}/4{\mathbb Z}乗法群だとか巡回群だとか言ったりします。直近の議論に直接関わってはきませんが、どこかで相まみえることになるので覚えておいてください。多分。

次回はこのディリクレ指標を使ってリーマンゼータ関数の一般化を与えていきます。