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限界オタクのにわか数学屋さんが書いています。

一番近くて一番遠い数字

一番近くて一番遠い

一番近くて一番遠い数字というものをご存知でしょうか。ご存知の方は、最後まで温かく見守っていてください。ご存知でない方は、一つずつ丁寧に見ていくのでご安心を。

突然ですが、一番近くて一番遠いと聞くと皆さんは一体何を思い浮かべるでしょうか。高身長スポーツマンと低身長優等生の親友、学園のアイドルと幼馴染の冴えないボク、そういう関係性でしょうか。

劣等感、正反対、すれ違い。そんなフレーズが頭をよぎりますが、今回のお話もある意味ではそういった目に見えないギャップが主旨となっているかもしれません。

直感の効力が及ばない世界がこの先に広がっています。その世界を生き抜くために必要な武器はただ一つ、論理です。

見たことのない道を掻き分け進んだその先、最後まで読んだ後の感想があなたにとって有意義なものとなることを願っています。

※本来ならばお話の舞台は有理数体ですが、今回は簡単な小話ですので自然数全体の集合をメインに見ていきます。

二人の距離は?

二人の距離が近い、と言うと二人の間に何やら親密な関係性があるように感じられます。逆に、二人の距離が遠い、と言うと赤の他人であろうかという推測が立ちます。

ただしそれは外から見た関係であり、二人にとっては物理的な距離がさほど問題にならない場合もあるでしょう。

上で示した例のように、近い、遠い、というのは一般に距離の尺度を表す言葉です。では、その距離というのは一体どのような定義なのでしょうか。

なんとなく、二つの数字が近ければ小さい、遠ければ大きい値を取る、だとか差を取るだとか、三平方の定理でどうのと続ける人がいるかもしれません。

ですが、数学において距離とは以下の性質を満たすもののことを指します。

距離の定義
集合 X の元 x,y,z に対して、x,y の距離 d(x,y) とは以下を満たす。
1.d(x,y) \ge 0
2.d(x,y)=0 \Rightarrow x=y
3.d(x,y)=d(y,x)
4.d(x,y) \le d(x,z)+d(y,z)

この四つさえ満たしていれば、二人の関係性を測る尺度を定義することができます。

のちに二つの距離が登場しますが、それらがこの四つの性質を満たしているかどうかの確認は皆さんへの宿題とします。

いつも通りの二人で

普段、何気なく使っている距離ですが、数学的には名前が付いていて、これをユークリッド距離と言います。

二つの自然数 x,y に対してその距離 d(x,y) を、絶対値の記号 | \cdot | を用いて

d(x,y):=|x-y|

と書くことができました。これは一次元の距離ですが、二次元の距離も定義できますね。

二つの自然数の組 x=(x_1,x_2),y=(y_1,y_2) に対してその距離 d(x,y)を、三平方の定理を用いて

\displaystyle d(x,y):=\sqrt{\left(x_{1}-y_{1}\right)^{2}+\left(x_{2}-y_{2}\right)^{2}}

と書くことができます。三次元以降も同様です。

これは言わば物理的な距離であり、第三者が二人の関係性を邪推するのに用いられます。

いつも通りの距離感、いつも通りの雰囲気。それでも確かに、二人の関係性は変化していきます。彼ら彼女らにしか分からない領域で。

小さなすれ違い

二人の間に、物理的な距離はあまり関係がありません。二人が大切にしているのは、もっと内面的で、本質的な部分です。

ここで、いつも通りではない距離を定義します。二人の本質に迫る、とても大切な距離の一つです。ここからは、少し準備に時間がかかります。

では、とりあえず p素数とします。ここで、適当な自然数 xp で何回割れるかを ord_{p}(x) で表すことにします。これをp進付値と言います。

たとえば p=2 のとき、24=2^3\times3素因数分解できるので ord_{2}(24)=3 となります。0 は任意の p の冪乗で割れると見なすことができるので、ord_{p}(0)=\infty とします。

任意の自然数 x に対してp進ノルム |x|_{p}

\displaystyle |x|_{p}:=\frac{1}{p^{ord_{p}(x)}}

で定義します。もう少し簡単に言えば、自然数 xx=p_{1}^{e_{1}}p_{2}^{e_{2}}\dots p_{i}^{e_{i}}\dots p_{n}^{e_{n}}素因数分解できるとき、p_{i} 進ノルムは \displaystyle |x|_{p_{i}}:=p^{-e_{i}} となります。先の例を流用すると、|24|_{2}=1/8 という感じです。

はい、準備が終わりました。一応補足ですが、注意書きに書いた通り、本当はこれらの概念は有理数体上で定義されます。続いて距離を導入します。

p進距離の定義
自然数 {\mathbb N} の任意の元 x,y に対して、p進距離 d_{p}(x,y)

d_{p}(x,y)=|x-y|_{p}

で定義する。

数の取り得る範囲を自然数に限定すると、p進距離の最大値が 1 となることは確認しておきましょう。

このような、p進付値、p進ノルム、p進距離などが定義された数の体系をp進数と言います。

情報系の人たちが普段使っている二進数や十六進数とは全く異なるので注意してください。

一番遠い二人がすべきたった一つのこと

このp進距離によって、二人の関係が一体どのように測れるのかを見ていきましょう。素数 p を、ここでは p=2 としておきます。

二つの自然数 2425 を考えます。これら二数はユークリッド距離においてその差は 1 なので、最も近い数の組の一つです。しかし、p進距離においてその差が 1 ということは 2 で一回も割ることができないので、d_{2}(24,25)=1 となり、今度は最も遠い数の組の一つになってしまいます。

他の例も見てみると、56-24=32=2^5 なので、p進距離は d_{2}(56,24)=1/32 となります。本来ならかなり離れているはずの数同士が、とても近い関係にあることが分かるかと思います。

当然、56,24 の二数は、素数 p を別の数に変えることでp進距離を 1 にすることは可能です。しかし、24,25 はどのような素数 p を持ってきても、そのp進距離は必ず 1 になってしまいます。

ここに一番近くて一番遠いと呼ばれる仕組みが潜んでいます。たった一つのずれが、大きな歪を生んでしまうことになるのです。

ただし、たった一つのずれはたった一つの歩み寄りで、どんな物差しで測ろうともその距離が 0 になります。

現状維持ではなく歩み寄ることが大切である、そういうことを示唆しているのかもしれませんね。まあ嘘なんですけど。

ファンディスクとはかくあるべし

後日談、ではなく与太話のコーナーです。

今回はp進数の紹介に留めた読み物なので、有用性や本質の一切を説いているわけではありません。が、それで終わってしまっては味気ないので、本質に繋がるヒントとして合同式を挙げておきます。二つの数が素数 p を法として合同とは、その差が p で割り切れるということです。

これ以上は、にわか数学徒が語るには難しいですので。このp進数という概念は数論を勉強する上で避けて通れ得ぬ道です。p進数を修めない数論専攻の数学徒はにわかです(偏見)。つまり私のことです(たった一つの真実)。

直感に頼れない数学の世界はいかがだったでしょうか。お気に召したようなら何よりです。お気に召さなかったならすみません。

それでは、またのご来訪をお待ちしております。