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限界オタクのにわか数学屋さんが書いています。

よくわかる現代数学 位相1「位相」

位相

タイトルに位相と書きましたが、分野として位相が単独で語られることはほとんどありません。もう少し言うと、位相という表題の参考書はそれほど多く存在しないということです。基本的には集合と位相だとか位相空間(論)位相幾何学といった参考書が大半を占めます。

今並べた三つは前から順に抽象的で基礎的な理論をベースとしていますので、丁寧に勉強するのであれば紹介した順に取り組むといいのではないでしょうか。本にもよるとは思いますが。

位相とは

位相とはざっくり言えば、元々はユークリッド空間のような幾何学的な対象に対してのみ定義されていた開集合や閉集合、距離といった基本的な概念を抽象化してもっと一般的な集合に対しても同じように開集合やら何やらを定義できるようにしようぜ、的な試みの結果生まれた概念です。

数学史に関してはあまり詳しくないので、下手に起源だとか起こりだとかいう話をすると怒られるためこの辺にしておきます。

集合と位相という表題で察しがつきますが、位相とは集合とセットにして用いられる概念です。以下集合の復習です。

stiltszeta.hatenablog.com

さて、過去記事に書いた通り、集合の集まりを一般に集合族と言いました。ここで空でない集合 X に対し、その部分集合を全て集めた集合族を冪集合と言い、{\mathscr P}(X) と書きます。大文字のPです。冪(power)なので。

{\mathscr P}(X) の部分集合、即ち集合 X の部分集合を適当に集めた集合族 {\mathscr O} を考えます。たとえばサイコロの出目 X=\{1,2,3,4,5,6\} であればその部分集合族 {\mathscr O} を以下のように設定できます。

{\mathscr O}=\left\{\phi,\{1,2\},\{2,4,6\},X \right\}

\phi空集合です。以前記号を設定し忘れたのでここで書いておきます。一般的に \phi を使うことが多いですが、0に斜線を引いたものも見かけます。形状的には言うて誤差です。高校の時に勉強した含む(・・)の記号を使うと

{\mathscr O} \subset {\mathscr P}(X)

と書けますね。

それでは改めて、ある集合 X に対してその冪集合を {\mathscr P}(X) とします。ここで、{\mathscr P}(X) の部分集合 {\mathscr O} が以下を満たす時、{\mathscr O}位相と呼ぶことにします。実は位相の同値な定義は一通りではありませんが、ここではとりあえず一つだけ扱うことにします。多分。

位相の(開集合による)定義
1.\phi,X \in {\mathscr O}
2.(有限交叉) \forall O_{1},O_{2} \in {\mathscr O} ならば O_{1} \cap O_{2} \in {\mathscr O}
3.(無限和)  \forall \left\{O_{\lambda}\right\}_{\lambda \in \Lambda} \subset {\mathscr O} ならば \displaystyle \bigcup_{\lambda \in \Lambda}O_{\lambda} \in {\mathscr O}

ここで言う \Lambda とは添字集合のことで、今回みたいに無限個の何かを用意して番号付けしたい場合に気軽に使える記号だと思ってください。まあ問題がそこでないのは見てもらえれば分かるかと思います。

なんかこう全体的に訳が分かりませんね。普通に微積線形代数を履修すれば無限和程度の処理はどうとでもなりますが、これこれを満たすものが位相ですと言われてもパっとするものが何一つありません。

ちなみにですが、括弧書きで開集合によるとしたように、この定義は開集合の公理と呼ばれることもあります。ド・モルガンの法則から閉集合の公理も同様にして記述できることを一応頭に入れておいてください。それから、開集合(open set)なので大文字のOですね。

有限位相空間

このまま終わってしまえば訳が分からないままなので、具体例で見ていきます。

上記の条件付けにおいて定義された集合 X位相空間と言い、(X,{\mathscr O}) で表します。有限位相空間とは集合 X が有限集合である位相空間のことを指します。そのまんまです。

というわけで有限集合を考えます。まずは手始めにこちら。

X=\{a\}

ふざけてんのかという感じですが、これくらい極端なところから始める癖をつけておくと今後役に立つ可能性があります。可能性があるというだけです。

さて定義を順番に確認していきます。そもそも真部分集合が空集合を除いて存在しないので条件2と条件3は無効というか自明ですね、条件1が成り立つのも自明なのでクリアです。

お次は

X=\{a,b\}

について調べていきましょう。元の個数が2なので冪集合の元の個数は2の2乗で4となります。

\phi , \{a\} , \{b\} , X=\{a,b\} \in {\mathscr P}(X)

はい四つですね。部分集合族を考えればよいわけですが、条件1から自動的に \phi , \{a,b\} の二つは  {\mathscr O} に属することとなります。もちろん、{\mathscr O}=\left\{\phi , \{a,b\} \right\} とすれば、これは先の一元集合と同じ状況ですので(X,{\mathscr O})位相空間となります。実はこれに名前が付いていて、密着位相と言います。ほとんど使いませんが。

{\mathscr O}=\left\{\phi , \{a\} , \{a,b\} \right\} とするとどうでしょうか。

\phi \cap \{a\}=\phi \ , \ \{a\} \cap \{a,b\}=\{a\} \ , \ \phi \cap \{a,b\}=\phi

より、これらは全て {\mathscr O} に入るので条件2も大丈夫そうですね。他方で

\phi \cup \{a\}=\{a\} \ , \ \{a\} \cup \{a,b\}=\{a,b\} \ , \ \phi \cup \{a,b\}=\{a,b\} \ , \ \phi \cup \{a\} \cup \{a,b\}=\{a,b\}

となるので、同様に条件3も満たしてくれそうです。定義に無限和と書きましたが、有限集合なので有限個の部分集合のみ確認すればいいことになります。というわけで {\mathscr O}=\left\{\phi , \{a\} , \{a,b\} \right\}位相空間 (X,{\mathscr O}) をなすことが分かりました。

{\mathscr O}=\left\{\phi , \{b\} , \{a,b\} \right\}a,b を入れ替えてあげれば同様の議論で済むので大丈夫ですね。

{\mathscr O}=\left\{\phi , \{a\} , \{b\} , \{a,b\} \right\}={\mathscr P}(X) も確認しなければいけない項目が少し増えますが、まあほとんど同じなので議論は省略します。まあ定義から冪集合は全ての部分集合を内包しているのでそれで自明な位相空間 \left(X,{\mathscr P}(X)\right) を作ることができます。これを特別に離散位相と言います。

つまり今回、位相空間が全部で四つあることが分かるかと思います。複数あっても大丈夫です。心配しないでください。

以下同様にして X=\{a,b,c\} を見ていきましょう。というか、これはお任せします。さあ紙とペンを出してください。








~thinking time~








……どうですか?できましたか?全部で29個ですよ?過不足ありませんか?

さすがに355個を調べ上げさせるような鬼畜ではありませんので、次行ってみようとは言いませんよ?

ところで X=\{a,b,c\} についてですが、たとえば {\mathscr O}=\left\{\phi, \{a\}, \{b\}, \{a,b,c\} \right\} とすると、\{a\} \cup \{b\}=\{a,b\} となり、これは {\mathscr O} の元ではないので条件を満たさないことになります。

その他の位相

有限でない位相空間としては、今回特に開集合の公理として定義しているので、n 次元ユークリッド空間 {\mathbb R}^{n} の開集合系(開部分集合全体){\mathscr O} を位相とした位相空間 \left({\mathbb R}^{n},{\mathscr O}\right)距離空間 (X,d) 上定義される開集合系などが挙げられます。

また、空でない集合 A \subset X について {\mathscr O}_{A}:=\{A \cap U \ | \ U \in {\mathscr O}\} とすると、これは集合 A の位相となり、A 上の {\mathscr O} に関する相対位相と言います。この時、位相空間 (A,{\mathscr O}_{A})位相空間 (X,{\mathscr O}) の部分空間と言います。

開集合と閉集合

前節で散々開集合と言ったので今更ではありますが、改めて位相空間における開集合の定義をしておきます。開集合があるということは閉集合もあるということになります。

(X,{\mathscr O})位相空間とする時、
1.O \in {\mathscr O} なる X の部分集合 OX の開集合と言い、{\mathscr O}X の開集合系と言う。
2.F=X-O \ \ O \in {\mathscr O} なる X の部分集合 FX閉集合と言う。

閉集合(closed set)なのに何で F なんでしょうね、理由は忘れました。どなたか知っていたら教えてください。もちろん、閉集合C閉集合系を {\mathscr C} と書く流派も存在します。

X=\{a,b\},{\mathscr O}=\left\{\phi, \{a\},\{a,b\}\right\} とすれば、開集合は

\phi \ , \ \{a\} \ , \ \{a,b\}

となり、閉集合はその補集合なので

\{a,b\} \ , \ \{b\} \ , \ \phi

となります。よく見ると \phiX が開集合の欄にも閉集合の欄にもいますが、位相空間論的に言えばこういうことはごくごく自然にあり得ます。これを開かつ閉集合などと言い、英語だと closed-open set だとか、少し洒落を利かせて clopen set と言ったりします。定義から明らかですが、任意の位相空間に対してその空集合と全体集合は開かつ閉になります。

次回は、近傍系及び写像の連続性、空間の連結性の予定です。あくまで予定です。予定は変更するために存在します。