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修論アーカイブス 数論3「ディリクレ指標」

算術級数定理

前回の記事

stiltszeta.hatenablog.com

の続きです。

準備1:素数が無限個存在することの別証明

前回、リーマンゼータ関数オイラー積表示を与えました。今回はそれを用いて別証明を示していきます。

\displaystyle \zeta(s)=\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-p^{-s}}

の両辺の対数を取ると、s>1 において

\displaystyle \log{\zeta(s)}=\log{\prod_{p:\text{素数}}\left(1-p^{-s}\right)^{-1}}=-\sum_{p:\text{素数}}\log{\left(1-p^{-s}\right)}

更に対数関数のテイラー展開から、

\displaystyle \text{(与式)}=\sum_{p:\text{素数}} \ \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{np^{ns}}=\sum_{p:\text{素数}}\frac{1}{p^s}+\sum_{p:\text{素数}} \ \sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{np^{ns}}

となります。s \to 1 とすると右辺の第一項が素数の逆数の和になるので、第二項が収束するならば第一項が発散することになります。左辺は当然発散します。ちなみにですが、最後の式変形は実質的に無限和の順序を入れ替える行為なので、細かい議論は複素関数論などの教科書を漁ってください。

ところでこのオイラー積表示を与えたのちに対数を取るという手法はゼータ関数論の世界ではよく使われるので、覚えておくことを強く推奨します。少しだけ話を付け加えると、両辺を微分した時、左辺に  \zeta(s)^{\prime} / \zeta(s) の項が出てきますが、この項が被積分関数の因子として偏角の原理に現れるからです。

さて、件の第二項から出発してその収束性を考えていきましょう。二重和のうち、内側の和(変数が n の方)を先に変形します。

\displaystyle 
\begin{eqnarray}
 \sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{np^{ns}}&<&\sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{2p^{ns}}=\frac{1}{2p^{2s}}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{p^{ns}}=\frac{1}{2p^{2s}}\frac{1}{1-\frac{1}{p^s}} \\
 &<&\frac{1}{2p^{2s}}\frac{1}{1-\frac{1}{2}}=\frac{1}{p^{2s}}
\end{eqnarray}

となるので、

\displaystyle \sum_{p:\text{素数}} \ \sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{np^{ns}}<\sum_{p:\text{素数}}\frac{1}{p^{2s}}<\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k^{2s}}<\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k^2}=\frac{\pi^2}{6}

と、第二項が収束することが示されました。よって、素数の逆数の和が発散することから素数が無限個存在することも言えます。\Box

準備2:ディリクレ指標

さて、算術級数定理を示すための準備として指標(特にディリクレ指標)という概念を用意します。指標自体は、ある群からある体への特殊な関数の総称だと思ってもらって大丈夫です。数論で主に議論されるのは乗法的指標と呼ばれる類のもので、群準同型となる関数です。表現論でも指標という言葉が出てきますが、あちらは表現行列のトレースを取ったものになります。

群準同型とは群について準同型、つまり群の演算構造を保つことを指します。どういうことかと言うと例えば、一般的な加法を入れた加法群 {\mathbb R} と一般的な乗法を入れた乗法群 {\mathbb R}_{>0} に対して指数関数 e :{\mathbb R} \longrightarrow {\mathbb R}_{>0}e^{(a+b)}=e^a \times e^b となる、みたいな感じです。

さて、この乗法的指標のうちディリクレ指標 \chi は以下の性質を満たすものを言います。

ディリクレ指標
整数から複素数への関数 \chi で、ある自然数 N に対して
1.N を法として  a \equiv b ならば  \chi(a)=\chi(b)
2.\chi(ab)=\chi(a)\chi(b)
3.\chi(1)=1
4.aN が互いに素でなければ \chi(a)=0

合同式はいいですかね。N を法としてを\mod N などとも書いたりしました。N で割った余りが同じだよっていうアレです。ここでついでに、よく用いられる有限な乗法群についてお話しておこうと思います。本来ならば剰余類と呼ばれるところから始めないといけないですが、今回は簡単に済ませます。これで一記事書けるので、また書いたらリンクを貼っておきます。

簡単のため、N=4 としておきます。この時、5=4 \times 1+1 より 5 \equiv 1 \mod 4 と書けますね。またこれの他にも 9,13,17,\dots1 と合同であり、余りの計算をする上では同じ数字と見なすことができます。このようにして整数を同じと見なせるもの同士でまとめると、最終的に 0,1,2,3 の4グループに分かれます。これらを改めて

\overline{0}=\{\dots,0,4,8,\dots\}
\overline{1}=\{\dots,1,5,9,\dots\}
\overline{2}=\{\dots,2,6,10,\dots\}
\overline{3}=\{\dots,3,7,11,\dots\}

と書き直します。負の数も仲間に入れてあげましょう、せっかくなので。この数字の集まりを集めたものがこちらになります。

{\mathbb Z}/4{\mathbb Z}:=\left\{ \overline{0},\overline{1},\overline{2},\overline{3} \right\}

これは環の性質は満たしているのでこのまま使ってあげてもいいんですが、ディリクレ指標が乗法性を仮定しているので乗法を見ていきます。すると、\overline{2}\times\overline{2}=\overline{0} となり、零因子がこの集合にあることが分かりました。このような掛け算をするには少し都合が悪い元を抜いてあげると残るのは単元だけになります。

※単元のお話はこてぃら↓
stiltszeta.hatenablog.com

するとどうなるかというと、

\displaystyle \left({\mathbb Z}/4{\mathbb Z}\right)^{\times}:=\left\{\overline{1},\overline{3} \right\}

こんな感じになり、これを {\mathbb Z}/4{\mathbb Z}乗法群だとか巡回群だとか言ったりします。直近の議論に直接関わってはきませんが、どこかで相まみえることになるので覚えておいてください。多分。

次回はこのディリクレ指標を使ってリーマンゼータ関数の一般化を与えていきます。