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限界オタクのにわか数学屋さんが書いています。

修論アーカイブス 数論4「ディリクレのL関数」

ディリクレのL関数

前回も言った通り、ディリクレ指標を用いてリーマンゼータ関数の一般化を与えていきます。

タイトルにもあるディリクレのL関数とは、ディリクレ級数の特別な場合を指しています。ディリクレ級数とは数論的関数 a(n) を用いて

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{a(n)}{n^s}

の形で書ける級数のことです。数論的関数とは定義域が正の整数で値域が複素数となる関数で、特にそれ以外の性質は指定しません。例えば、複素数\{a_{n}\}n \to a_n なる数論的関数と読むことができます。ぶっちゃけあまり出てこないので無理に覚える必要はありません。この数論的関数をディリクレ指標で置き換えたものがディリクレのL関数となります。

ディリクレの L 関数
\displaystyle L(\chi,s)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\chi(n)}{n^s}

あるいは単にL関数と言ったりします。ゼータ関数の一般化は様々ありますがこれは歴史的にも古い関数の一つとなっていて、比較的取り組みやすい部類に入るかと思います。この定義において \chi(n)=1 \ \ (\forall n \in {\mathbb N}) とすればリーマンゼータ関数になります。このような指標を主指標と言ったりします。

L関数のオイラー積表示

次に、L関数のオイラー積表示を考えていきましょう。とは言ってもやること自体はゼータ関数とほとんど変わらないので、基本的な議論は焼き回しです。楽でいいですね。

stiltszeta.hatenablog.com

過去の記事にある通り、L関数も直感的には素因数分解で問題ありません。

\displaystyle 
\begin{eqnarray}
 L(\chi,s)&=&\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\chi(n)}{n^s} \\
&=&\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-\chi(p)/p^s} 
\end{eqnarray}

こうなってくれたらいいなあ、嬉しいなあ、という感じなわけですが、一つ確認しておかなければならないことがあるので、それを素因数分解の形で見ていきます。ゼータ関数の時はこうなります。

\displaystyle 
\begin{eqnarray}
 \zeta(s)&=&\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s} \\
&=&\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-1/p^s}  \\
&=&\left(1+\frac{1}{2^1}+\frac{1}{2^2}+\dots\right)\left(1+\frac{1}{3^1}+\frac{1}{3^2}+\dots\right)\dots \left(1+\frac{1}{p^1}+\frac{1}{p^2}+\dots\right)\dots
\end{eqnarray}

L関数だとこうなります、というかこうなってほしいです。

\displaystyle 
\begin{eqnarray}
 L(\chi,s)&=&\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\chi(n)}{n^s} \\
&=&\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-\chi(p)/p^s}  \\
&=&\left(1+\frac{\chi(2)}{2^1}+\frac{\chi(2)^2}{2^2}+\dots\right)\left(1+\frac{\chi(3)}{3^1}+\frac{\chi(3)^2}{3^2}+\dots\right)\dots \left(1+\frac{\chi(p)}{p^1}+\frac{\chi(p)^2}{p^2}+\dots\right)\dots
\end{eqnarray}

例えば無限和において n=4 の項は \chi(4)/4 となるはずなので、\chi(2)^2=\chi(2^2)=\chi(4) であれば問題ないですね。定義から言えばそりゃそうじゃろって感じですが、不安になった方は

stiltszeta.hatenablog.com

過去記事でディリクレ指標の定義2.を確認してください。この定義がディリクレ指標を完全乗法的関数であると決定付けています。完全乗法的とは任意の二数に対してその乗法性が認められることです。

前回説明しそびれましたが、乗法的関数とは二数が互いに素である場合においてその乗法性を認める関数なので、L関数のオイラー積表示を与えたければ完全乗法性が必要になってきます。逆に言えば、数論的関数が(完全)乗法的関数であればそれに対応したディリクレ級数オイラー積表示を与えることができます。

ここで確認した以外はリーマンゼータ関数と同様にしてできるので、今回は割愛します。

ディリクレ級数オイラー積表示

というわけで、小休止としてこんな級数オイラー積表示があるんだよっていう紹介をしようと思います。これらのオイラー積表示が役に立つ場面はあまり多くありませんが、紹介する数論的関数がしばしば出てきます。多分。

1.a(n)=d(n) (約数関数)

約数関数 d(n) は、n の約数の個数を示しています。例えば、d(1)=1,d(2)=2,d(6)=4 という感じです。これは完全でない乗法的関数になるので(証明略)、オイラー積表示を与えることができます。またべき乗に対して、d(p^k)=k+1 となります。

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{d(n)}{n^s}=\prod_{p:\text{素数}}\left(1+\frac{2}{p^s}+\frac{3}{p^{2s}}+\frac{4}{p^{3s}}+\dots\right)=\zeta(s)^2

いくつか重要な式変形を省きました。どうしてこうなるのかは、実際に手計算して確かめてみてください。

2.a(n)=\mu(n)メビウス関数)

メビウス関数 \mu(n) は以下ような関数を指します。

平方因子を持つ、というのは 1 以外の平方数で割り切れることを言います。まあ、定義だけ書いてもさっぱりなので具体的に計算する方が手っ取り早いでしょう。

べき乗 a^n \ (n>1) は平方因子を持つので \mu(a^n)=0eg. \ 4=2^2,27=3^3
素数 p は自身でのみ素因数分解ができるので \mu(p)=-1
10=2 \times 5素因数分解できるので \mu(10)=2

これも m,n が互いに素であれば乗法的(\mu(mn)=\mu(m)\mu(n))ですが、互いに素でない場合その積は平方因子を持つので完全乗法的関数にはなりません。証明は約数関数より簡単だと思います。

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{\mu(n)}{n^s}=\prod_{p:\text{素数}}\left(1-\frac{1}{p^s}\right)

これも例により式変形を省きました。まずは無限和を書き下してからこうなることを確かめてみてください。ところで、この右辺の形、どこかで見たなあという気分になりますよね?なりますね?なってください。いいですね、ページ上部、リーマンゼータ関数オイラー積表示のところですね。つまりこの式は更にこう変形できるということです。

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{\mu(n)}{n^s}=\prod_{p:\text{素数}}\left(1-\frac{1}{p^s}\right)=\frac{1}{\zeta(s)}

こいつぁすげぇや。

算術級数定理への道程

お忘れかもしれませんが、私たちは今算術級数定理すなわち、算術級数内に素数が無限個存在することの証明をしようとしているところでした。算術級数

a \ ,a+q \ ,a+2q \ ,\dots

としておきます。この時、それに対応するように指標 \chi を、法を q とするディリクレ指標とし、L関数を L(\chi,s) とします。最終的に示したいことはゼータ関数の時と変わりませんが、定理を示す際に必要な補題を一つ紹介します。

主張がシンプル過ぎて見栄えが悪いですね。こういう時、どうしたらいいか教えてください。コード付きで。

冗談はさておき、この補題を示すことができれば算術級数定理の八割が終わったようなものです。

ディリクレ指標の性質

それでは補題の証明に向けて、前回説明し忘れた(おい)ディリクレ指標の性質から入りたいと思います。定義は過去記事を参照してください。

ディリクレ指標の特別な場合に、以下のようなものがあります。n を法とするディリクレ指標 \chi_{0} について、

\displaystyle 
\chi_{0}(a)=\left \{\begin{array}{11}
1 & (a\text{が}n\text{と互いに素}) \\
0 & (other)
\end{array} \right.

これを自明な指標あるいは単位指標と言います。

ところで、指標を扱うにあたってその直交性は非常に重要な概念になってきます。今回はディリクレ指標に関してのみ言及しますが、本来であれば一般の指標及びその指標群に対して言えるのでディリクレ指標の性質はあまり関与せず示すことができます。

さて、改めてn を法とするディリクレ指標を \chi : \left({\mathbb Z}/n{\mathbb Z}\right)^{\times} \longrightarrow {\mathbb C}^{\times} と書きます。ついでにこのような法 n の指標の集まりを \hat{G} とします。これを指標群と言います。また、\varphi(n)n 以下で n と互いに素な自然数の個数とし、これをオイラーのトーシェント関数(あるいは単にオイラー関数)とします。

すると、巡回群 \left({\mathbb Z}/n{\mathbb Z}\right)^{\times} の元はいずれも n と互いに素な数を集めてきたものなので、この位数(元の個数)は \varphi(n) となります。

直交関係式
\displaystyle \begin{eqnarray}
(1) \ \sum_{a=1}^{n}\chi(a)&=&\left \{\begin{array}{11}
\varphi(n) & (\chi =\chi_{0}) \\
0 & (\chi \neq \chi_{0})
\end{array} \right. \\
(2) \ \sum_{\chi \in \hat{G}}\chi(a)&=&\left \{\begin{array}{11}
\varphi(n) & (a=1) \\
0 & (a\neq 1)
\end{array} \right.
\end{eqnarray}

証明)(2)式は(1)式の双対を取ればいいので今回は省略します。双対も一記事書けそうな概念なのでまた書いたらリンクを貼ります(多分)。(1)式は自明な指標の場合には先の説明及び定義から明らかですね。n と互いに素な数をカウントするだけの和と化します。\chi が非自明な場合を考えていきます。

ここで、b \in \left({\mathbb Z}/n{\mathbb Z}\right)\chi(b) \neq 1 なるものが存在し、その乗法性及び和のわたり方から

\displaystyle \chi(b)\sum_{a=1}^{n}\chi(a)=\sum_{a=1}^{n}\chi(ab)=\sum_{a=1}^{n}\chi(a)

が言えるので、

\displaystyle \left(\chi(b)-1\right)\sum_{a=1}^{n}\chi(a)=0

\chi(b) \neq 1 から和が0となり、主張が示されました。\Box

次回は上記の補題をわちゃわちゃやっていきます。