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修論アーカイブス 数論2「算術級数」

※この章より、Harold Davenport著「Multiplicative Number Theory」にちなむ内容となりますことを予めご了承ください。末尾にて著書のリンクを貼っておきます。

算術級数

算術級数なんて言葉を使っていますが、何ということはない等差数列のことです。高校二年の「数学B」で習ったアレです。一般に等差数列と言えば

2 \ , \ 6=2+4 \ , \ 10=2+4+4 \ , \ \dots

のように書きますが、本シリーズに限り初項 a 、公差 q が互いに素となる場合にのみ(狭義の)算術級数と呼ぶことにします。具体的には

3 \ , \ 5=3+2 \ , \ 7=3+2+2 \ , \ \dots

などの数列を指します。今後はこの算術級数素数を扱っていきます。

算術級数定理

ところで素数が無限個存在することの証明は皆様できますでしょうか。証明の方法としては有名なものも含めいくつかありますが、オーソドックスに背理法を用いてあげればいいですかね。高校の時に整数問題として取り組んだことのある人もいるかもしれません。

それでは一つ質問です。先ほど説明した狭義の算術級数内に素数は無限個存在するでしょうか。どんな算術級数も無限個の素数を含む場合はその証明を、逆に素数を有限個しか含まない算術級数がある場合はその具体例を挙げてください。

一気に問いが難化しましたね。答えとしては「任意の算術級数は無限個の素数を含む」です。この事実を俗に(ディリクレの)算術級数定理と言います。これも様々な証明がありますが、今後の展望も兼ねてディリクレの L 関数を用いた複素関数論で攻めたいと思います。ちなみにですが大味の証明は某Wikipediaさんにも載っています。

準備1:素数が無限個存在することの別証明

準備として素数が無限個存在することの別証明を以下の主張から与えます。


\displaystyle \sum_{p:\text{素数}}\frac{1}{p} = \frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\dots = \infty

素数の逆数を足していってこれが無限大に発散するなら素数は無限個あることになるよね、ってことです。有限個の和では有限の値にしかなりませんから。これと同じ理屈で算術級数内に素数が無限個あることを示していくという寸法です。それでは証明に移りたいと思います。

始めに、ゼータ関数オイラー積表示を与えていきます。特にゼータ関数論において様々なゼータ関数オイラー積表示を軽率に与えたがるので、とりあえず単語だけでも覚えてください。直感的には素因数分解の一意性で説明がつきますが、無限和や無限積が収束して一致することを示すためにはその差が0へ収束することを言うケースが多いです。

リーマンゼータ関数オイラー積表示
\displaystyle \zeta(s)=\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-p^{-s}}

右辺の因子を一つ取り出すと、これは無限等比数列の和であると見なすことができるので、

\displaystyle \frac{1}{1-p^{-s}}=1+p^{-s}+p^{-2s}+\dots

となり、この p2 から有限のある素数 q まで掛け合わせた式 Q(s) を考えます。


\displaystyle 
       \begin{eqnarray}
        Q(s)&=&\prod_{p:\text{素数}}^{q}\frac{1}{1-p^{-s}} \\
                    &=&(1+2^{-s}+2^{-2s}+\dots)(1+3^{-s}+3^{-2s}+\dots)\dots (1+q^{-s}+q^{-2s}+\dots)
       \end{eqnarray}

さらにこの右辺を展開すると、最大で q の負べき乗を因子に持つ項が無限に表れることになります。たとえば q=7 とすれば

\displaystyle \frac{1}{7^{-s}} \ , \ \frac{1}{2^{-3s}5^{-2s}} \ , \ \frac{1}{2^{-11s}3^{-45s}5^{-14s}7^{-1919s}}

のような項が出てきますね。指数に他意はありません。ここで集合 A_{q} を以下で定義します。

\displaystyle A_{q}=\{2^{a_{2}}3^{a_{3}}\dots q^{a_{q}} \ | \ a_{2} \ , \dots \ , \ a_{q} \in {\mathbb Z}_{\ge 0}\}

{\mathbb Z}_{\ge 0} とは 0 以上の整数全体の集合を指します。定義の仕方から、A_{q}q 以下の数を全て含み、かつ q+1 以上の数をチラホラ含むことが分かりますね。すると与式が次のように変形されます。


\displaystyle 
       \begin{eqnarray}
        Q(s)&=&\prod_{p:\text{素数}}^{q}\frac{1}{1-p^{-s}} \\
                    &=&(1+2^{-s}+2^{-2s}+\dots)(1+3^{-s}+3^{-2s}+\dots)\dots (1+q^{-s}+q^{-2s}+\dots) \\
                    &=&\sum_{n \in A_{q}}\frac{1}{n^{-s}}
       \end{eqnarray}

それっぽい形になってきました。後で雑に評価するのでぶっちゃけここまで丁寧に書く意味はあまりないんですけど、きっちり明示しておかないとしこたま追及されるのが数学という世界なのです。この和とゼータ関数との差を取ると、下線部から評価を与えることができます。

\displaystyle  | \zeta(s)-Q(s) | = \left| \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{-s}} - \sum_{n \in A_{q}}\frac{1}{n^{-s}} \right| = \left| \sum_{n \notin A_{q}}\frac{1}{n^{-s}} \right| < \left| \sum_{n=q+1}^{\infty}\frac{1}{n^{-s}} \right|

ここで q \to \infty とすれば右辺は 0 へ収束するので、

\displaystyle \zeta(s)=\lim_{q \to \infty}Q(s)=\lim_{q \to \infty}\prod_{p:\text{素数}}^{q}\frac{1}{1-p^{-s}}=\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-p^{-s}}

と、リーマンゼータ関数オイラー積表示が示されました。 \Box   つづく。え、つづくの?

参考文献

「Multiplicative Number Theory」著:Harold Davenport
https://www.amazon.co.jp/Multiplicative-Number-Theory-Graduate-Mathematics/dp/0387950974
修士一年の時に読んでいたものです。内容は算術級数定理に始まり、ヴィノグラードフの定理などまで。英語かつやや古めなので、使われる記号も古め。たまに寄り道します。

素数ゼータ関数」著:小山 信也
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比較的易しい日本語の書物です。内容はおよそ算術級数素数定理まで。上の本を読むにあたってしばしば参考にしていました。学部生の時に買ったのでまあまあ読みやすいです、学部生でも他学部でも読めます。