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限界オタクのにわか数学屋さんが書いています。

よくわかる現代数学 代数学5「体」

※前半は文章が大量に投入されています。体だけさくっと読みたいという方は目次からの項目までジャンプしてください。

体でない環

前回ざっくりと、二つ目の演算(主に乗法)に対して逆元を持つ集合を体と言うという話をしました。つまり、全ての体は環になりますが、全ての環が体になるというわけではありません。体は環の特殊な一例と読むことができますが、ここには代数学的に大きなギャップがあります。環ではあるが体ではない特殊な性質を持つ集合がたくさんある、ということです。まずはそれらの簡単な紹介から入りたいと思います。ただし、今回は体を乗法について可換な体であるとします。また、可換でない体を斜体などと言ったりします。

 \text{環} \supset \text{可換環} \supset \text{整域} \supset \text{整閉整域} \supset \text{一意分解整域} \supset \text{単項イデアル整域} \supset \text{ユークリッド整域} \supset \text{体}

いきなり色々並べても何のこっちゃか分からないかと思いますが、環と体の間にはこんなに大きな性質の差があるんだよってことをなんとなく理解してもらえればいいです。整閉やイデアルなどは聞き慣れない言葉だと思いますが、一意分解などはどうでしょうか。素因数分解の一意性って、聞き覚えありませんかね。1が素数じゃないのは何故か、という議論でよく根拠にされてきた素因数分解の一意性ですが、こんなところでこんにちはします。さて、順番に説明していきます……が、必要な知識の都合上いくつかは割愛します。

整域

誠に残念ながら、聖域(サンクチュアリ)のことではありません。さて、整域とは零因子を持たない環のうち、自明な環 \{0\} でないものを言います。おう、知らない単語を知らない単語で説明するのやめーやという話ですので、零因子の解説をしていきます。

前回、n次正方行列全体が環になるという話をしました。そこでイメージしやすいように、実数のみを要素に持つ2次正方行列全体、すなわち M(2,{\mathbb R}) を考えていきます。M はmatrixの頭文字です多分。実数の積であれば、xy=0 の時、x,y のいずれかが 0 になりましたが、行列の積がそうなるとは限らないということを理系の方は数Cで学んだかと思います。具体的に

X=\left(
\begin{array}{rr}
1 & 0 \\
0 & 0
\end{array}
\right),
Y=\left(
\begin{array}{rr}
0 & 0 \\
0 & 1
\end{array}
\right)

とすれば X,Y はいずれも行列における加法単位元 {\bf 0} (すべての要素が0)ではありませんが、XY={\bf 0} となります。このように、0ではないが積が0になる元を零因子と言います。つまり整域とは、0を含まない積が0になることはないよという性質を保証する環ということになります。原始的な例だと整数全体がそうですね。またお前かという感じですが。

一意分解整域

ざっくりした感覚は先ほど説明した通りです。代数学的に言えば、任意の元が既約元の積で一意に書けるような整域のことを指します。先の議論同様、以下既約元の説明です。既約元とは、0でも単元(可逆元)(逆元を持つ元のこと)でもない元のうち、二つの非単元の積で表せないものを言います。一意分解整域の原始的な例は整数全体です。まあ素因数分解がどうのこうのという話だったので当然ではありますが。この整数環  {\mathbb Z} において単元は  \pm 1(それぞれ自分自身が逆元になる)、既約元は素数となります。

ユークリッド整域

定義についての細かい話はしませんが、ユークリッドの名の通り、一般化されたユークリッドの互除法を保証する整域のことです。二つの自然数の最大公約数を求めることができるアレです。世代によっては高校の数学で触れていない可能性があります。私は触れていません。

体の定義と具体例

整域の話が長くなってしまいましたが、ここから(可換)体についてです。以下、いつも通りの定義コピペです。

体の定義
集合 A がその上の演算 f:A \times A \longrightarrow A 及び g:A \times A \longrightarrow A について体であるとは以下の条件を満たすことを言う。
1.可換環 Af 及び g について可換環をなす。
2.逆元  A の任意の元 a に対して A の元 w が一意にあって
g(a,w)=g(w,a)=e

ところで体の議論をするにあたり、自明な体 \{0\} は基本的に扱いません。故に、加法単位元 1 と乗法単位元 0 について 1 \ne 0 としておきます。具体例としてはここで整数全体とおさらばして、有理数全体が挙げられます。まあ、整数を整数で割るってそりゃ有理数ですので。もちろん実数全体や複素数全体も体になりますが、特に有理数{\mathbb Q} は代数的整数論において非常に重要な役割を担っているので、以下有理数体及びその拡大について少しだけ述べておこうと思います。

体の拡大

体には拡大という概念があります。ある体 K を元に新しい体を作ろうぜ、というニュアンスです。今から、その一番シンプルな形のものを見ていきます。

有理数K={\mathbb Q} に対して拡大体 L={\mathbb Q}(\sqrt{2}) を次のように定義します。

{\mathbb Q}(\sqrt{2}):=\{a+b\sqrt{2} \  | \ a,b \in {\mathbb Q} \}

具体的にどういう数を元に持つかというと、1,3\sqrt{2},\frac{4}{5}-\frac{6\sqrt{2}}{7} などが挙げられます。するとこれは {\mathbb Q} 上2次のベクトル空間であることが分かります。ベクトル空間とは何ぞやという人は全学科目で使った線形代数学の教科書を引っ張り出してあげてください。和とスカラー倍で閉じているとかいうアレです。感覚的に \vec{a}=1,\vec{b}=\sqrt{2} がなす有理数係数のベクトル空間だと捉えてもらえれば問題ありません。

有理数K={\mathbb Q} に対して拡大体 L={\mathbb Q}(\sqrt{2}) が次数2のベクトル空間をなすので、この時拡大次数が2である、などと言い、[L:K]=2 と書きます。また、体の拡大 [L:K] に対して、L の任意の元が K 係数のとある多項式の根(代入したら0になる数のこと、ex. x^2-1 の根は \pm 1)となる時、これを代数拡大と言い、L代数体と言います。このような一般に {\mathbb Q}(\sqrt{d})(ただし d は任意の整数)の形で書ける代数体を2次の拡大体なので2次体と言います。

2次体の理論は代数学や代数的整数論などにおいて活発に議論が交わされているテーマであります。当該分野における諸理論を理解する上で欠かせないテーマなので、これらを勉強していく上では決して避けて通れ得ぬ道です。地道に習得することを心掛けましょう。特に体の拡大については、かの有名なガロア理論に大きく関わっていきます。

代数学の基本的なお話はここまでとなります。お読みいただきありがとうございました。(了)