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修論アーカイブス 数論2「算術級数」

※この章より、Harold Davenport著「Multiplicative Number Theory」にちなむ内容となりますことを予めご了承ください。末尾にて著書のリンクを貼っておきます。

算術級数

算術級数なんて言葉を使っていますが、何ということはない等差数列のことです。高校二年の「数学B」で習ったアレです。一般に等差数列と言えば

2 \ , \ 6=2+4 \ , \ 10=2+4+4 \ , \ \dots

のように書きますが、本シリーズに限り初項 a 、公差 q が互いに素となる場合にのみ(狭義の)算術級数と呼ぶことにします。具体的には

3 \ , \ 5=3+2 \ , \ 7=3+2+2 \ , \ \dots

などの数列を指します。今後はこの算術級数素数を扱っていきます。

算術級数定理

ところで素数が無限個存在することの証明は皆様できますでしょうか。証明の方法としては有名なものも含めいくつかありますが、オーソドックスに背理法を用いてあげればいいですかね。高校の時に整数問題として取り組んだことのある人もいるかもしれません。

それでは一つ質問です。先ほど説明した狭義の算術級数内に素数は無限個存在するでしょうか。どんな算術級数も無限個の素数を含む場合はその証明を、逆に素数を有限個しか含まない算術級数がある場合はその具体例を挙げてください。

一気に問いが難化しましたね。答えとしては「任意の算術級数は無限個の素数を含む」です。この事実を俗に(ディリクレの)算術級数定理と言います。これも様々な証明がありますが、今後の展望も兼ねてディリクレの L 関数を用いた複素関数論で攻めたいと思います。ちなみにですが大味の証明は某Wikipediaさんにも載っています。

準備1:素数が無限個存在することの別証明

準備として素数が無限個存在することの別証明を以下の主張から与えます。


\displaystyle \sum_{p:\text{素数}}\frac{1}{p} = \frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\dots = \infty

素数の逆数を足していってこれが無限大に発散するなら素数は無限個あることになるよね、ってことです。有限個の和では有限の値にしかなりませんから。これと同じ理屈で算術級数内に素数が無限個あることを示していくという寸法です。それでは証明に移りたいと思います。

始めに、ゼータ関数オイラー積表示を与えていきます。特にゼータ関数論において様々なゼータ関数オイラー積表示を軽率に与えたがるので、とりあえず単語だけでも覚えてください。直感的には素因数分解の一意性で説明がつきますが、無限和や無限積が収束して一致することを示すためにはその差が0へ収束することを言うケースが多いです。

リーマンゼータ関数オイラー積表示
\displaystyle \zeta(s)=\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-p^{-s}}

右辺の因子を一つ取り出すと、これは無限等比数列の和であると見なすことができるので、

\displaystyle \frac{1}{1-p^{-s}}=1+p^{-s}+p^{-2s}+\dots

となり、この p2 から有限のある素数 q まで掛け合わせた式 Q(s) を考えます。


\displaystyle 
       \begin{eqnarray}
        Q(s)&=&\prod_{p:\text{素数}}^{q}\frac{1}{1-p^{-s}} \\
                    &=&(1+2^{-s}+2^{-2s}+\dots)(1+3^{-s}+3^{-2s}+\dots)\dots (1+q^{-s}+q^{-2s}+\dots)
       \end{eqnarray}

さらにこの右辺を展開すると、最大で q の負べき乗を因子に持つ項が無限に表れることになります。たとえば q=7 とすれば

\displaystyle \frac{1}{7^{-s}} \ , \ \frac{1}{2^{-3s}5^{-2s}} \ , \ \frac{1}{2^{-11s}3^{-45s}5^{-14s}7^{-1919s}}

のような項が出てきますね。指数に他意はありません。ここで集合 A_{q} を以下で定義します。

\displaystyle A_{q}=\{2^{a_{2}}3^{a_{3}}\dots q^{a_{q}} \ | \ a_{2} \ , \dots \ , \ a_{q} \in {\mathbb Z}_{\ge 0}\}

{\mathbb Z}_{\ge 0} とは 0 以上の整数全体の集合を指します。定義の仕方から、A_{q}q 以下の数を全て含み、かつ q+1 以上の数をチラホラ含むことが分かりますね。すると与式が次のように変形されます。


\displaystyle 
       \begin{eqnarray}
        Q(s)&=&\prod_{p:\text{素数}}^{q}\frac{1}{1-p^{-s}} \\
                    &=&(1+2^{-s}+2^{-2s}+\dots)(1+3^{-s}+3^{-2s}+\dots)\dots (1+q^{-s}+q^{-2s}+\dots) \\
                    &=&\sum_{n \in A_{q}}\frac{1}{n^{-s}}
       \end{eqnarray}

それっぽい形になってきました。後で雑に評価するのでぶっちゃけここまで丁寧に書く意味はあまりないんですけど、きっちり明示しておかないとしこたま追及されるのが数学という世界なのです。この和とゼータ関数との差を取ると、下線部から評価を与えることができます。

\displaystyle  | \zeta(s)-Q(s) | = \left| \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{-s}} - \sum_{n \in A_{q}}\frac{1}{n^{-s}} \right| = \left| \sum_{n \notin A_{q}}\frac{1}{n^{-s}} \right| < \left| \sum_{n=q+1}^{\infty}\frac{1}{n^{-s}} \right|

ここで q \to \infty とすれば右辺は 0 へ収束するので、

\displaystyle \zeta(s)=\lim_{q \to \infty}Q(s)=\lim_{q \to \infty}\prod_{p:\text{素数}}^{q}\frac{1}{1-p^{-s}}=\prod_{p:\text{素数}}\frac{1}{1-p^{-s}}

と、リーマンゼータ関数オイラー積表示が示されました。 \Box   つづく。え、つづくの?

参考文献

「Multiplicative Number Theory」著:Harold Davenport
https://www.amazon.co.jp/Multiplicative-Number-Theory-Graduate-Mathematics/dp/0387950974
修士一年の時に読んでいたものです。内容は算術級数定理に始まり、ヴィノグラードフの定理などまで。英語かつやや古めなので、使われる記号も古め。たまに寄り道します。

素数ゼータ関数」著:小山 信也
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比較的易しい日本語の書物です。内容はおよそ算術級数素数定理まで。上の本を読むにあたってしばしば参考にしていました。学部生の時に買ったのでまあまあ読みやすいです、学部生でも他学部でも読めます。

修論アーカイブス 数論1「リーマン予想とゼータ関数」

※このシリーズでは複素解析や二次体論等の知識を仮定しますが、今回は必要ありません。


アメリカにあるクレイ数学研究所は七つの未解決問題に懸賞金をかけました。2018年現在、ポアンカレ予想は解決され残りは六つです。そのうち、リーマン予想はフィクションなどでもよく取り上げられ、最も有名な未解決問題の一つと言えるでしょう。

リーマン予想

ところで、音に聞くリーマン予想とは一体どのような主張なのでしょうか。ゆかいなインターネッツなどで適当に検索すれば文言として視界に入れることは可能でしょう。

リーマン予想
複素平面に解析接続されたゼータ関数 \zeta (s) の非自明な零点は全て  \displaystyle {\rm Re}(s)=\frac{1}{2} 上に存在する。

大体どこもこんな感じで書いてあると思います。このままでは何のことだかさっぱりなので、今回は厳密にわちゃわちゃするでなく、雑に主張を理解しようというコンセプトでやっていきます。

ゼータ関数

リーマン予想における主役はこの関数です。実はゼータ関数と言うと様々な種類がありますが、一般化されていない、所謂リーマンゼータ関数のことだと思ってください。歴史的に見て最も古く、最も有名なゼータ関数です。数学専攻でなくても力学系微分方程式系を扱っているならご存知の方も多いと思います。

リーマンゼータ関数
 \displaystyle \zeta (s)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s} \ \  (s > 1)

右の無限和が s=1 で発散するというのは高校の数学でもやりましたね。反比例のグラフを書いてその積分と比較をしたアレです。つまり発散のオーダーは  \log になります。同じく積分の要領でこの関数が s>1 で収束することが簡単に分かります。厳密に証明したければ  \epsilon - \delta を使ってください。

次に複素平面への拡張ですが、{\rm Re}(s)>1 の場合にはオイラーの公式(でなくてもいいんですが)から同じ議論で無限和が収束するので、問題なく定義域を拡張できます。{\rm Re}(s) \le 1 の場合に、解析接続という手法を用います。簡単に言えば、限られた定義域内で美味しい性質(正則)を持つ関数に対して、その定義域をいい感じに広げることができる(連結性)というものです。先にも言った通り細かい議論は割愛しますが、複素関数論の簡単な教科書にも載っていると思います。

この解析接続により、リーマンゼータ関数s=1 を除く全複素平面にその定義域を拡張することができます(関数によってはここまで上手く拡張できない場合があります)。ここで小話としてゼータ関数の特殊値について紹介したいと思います。

解析接続された \zeta (1) が発散することについては言及しました。
では、\zeta(2)\zeta(0) = 1+1+1+\dots\zeta(-1)=1+2+3+\dots などはどうでしょうか。どうでしょうも何も後ろ二つは発散するやんけとお思いの方も多いでしょう、しかしこれが解析接続の不思議なところなのであります。というか直感に反する例としてよく取り上げられていますね。

答え合わせをします。


\begin{eqnarray}
        \zeta(2)&=&\frac{{\pi}^2}{6} \\
        \zeta(0)&=&-\frac{1}{2} \\
        \zeta(-1)&=&-\frac{1}{12} 
       \end{eqnarray}

一つ目はバーゼル問題という有名な問題ですので、あっこれ見たことあるわってなるかもしれません。二つ目以降については論理的にはあんまり正しくない計算方法(ただし直感的に分かる)や解析接続を交えた細かい証明などもその辺に落ちていますので、ここでのネタバレは控えさせていただきます。決して解説が面倒だとかそんなことはありません。ありませんとも。

このような議論に興味を持っていただけた方は諸手を挙げて歓迎します。ようこそ、沼へ。

話を本筋に戻します。このゼータ関数の零点、というところでしたが実は特殊値と少しばかり関係があります。零点というのは、代入したら0になる値(点)のことです。方程式 \zeta(s)=0 の解だと思ってもらって構いません。

例えば関数 f(s)=|s|-1 の零点はすなわち |s|-1=|x+yi|-1=0 \ (x,y \in {\mathbb R}) の解なので、複素平面上に原点を0とした半径1の円を描きます。自明な零点というのは要するに超分かりやすい零点のことですが、ゼータ関数 \zeta(s)s が負の偶数の時に値0を取ります。つまり、-2、-4…が自明な零点というやつです。超分かりやすいですね。

非自明、すなわち簡単には分からない零点が他にもあって、それらは全て s=\frac{1}{2}+yi \ (y \in {\mathbb R}) の形で表されるというのがリーマン予想の主張です。記憶の限りでは、計算により十万個単位で非自明零点が見つかっていて、いまのところはすべてこの予想を満たしているらしいです。

どうでしたか、リーマン予想の主張はご理解いただけましたでしょうか。途中の議論はすっ飛ばしたのでそこんとこ詳しくという要望があれば別個に書きたいと思います。ではまた。

よくわかる現代数学 代数学5「体」

※前半は文章が大量に投入されています。体だけさくっと読みたいという方は目次からの項目までジャンプしてください。

  • 体でない環
    • 体の定義と具体例
    • 体の拡大

体でない環

前回ざっくりと、二つ目の演算(主に乗法)に対して逆元を持つ集合を体と言うという話をしました。つまり、全ての体は環になりますが、全ての環が体になるというわけではありません。体は環の特殊な一例と読むことができますが、ここには代数学的に大きなギャップがあります。環ではあるが体ではない特殊な性質を持つ集合がたくさんある、ということです。まずはそれらの簡単な紹介から入りたいと思います。ただし、今回は体を乗法について可換な体であるとします。また、可換でない体を斜体などと言ったりします。

 \text{環} \supset \text{可換環} \supset \text{整域} \supset \text{整閉整域} \supset \text{一意分解整域} \supset \text{単項イデアル整域} \supset \text{ユークリッド整域} \supset \text{体}

いきなり色々並べても何のこっちゃか分からないかと思いますが、環と体の間にはこんなに大きな性質の差があるんだよってことをなんとなく理解してもらえればいいです。整閉やイデアルなどは聞き慣れない言葉だと思いますが、一意分解などはどうでしょうか。素因数分解の一意性って、聞き覚えありませんかね。1が素数じゃないのは何故か、という議論でよく根拠にされてきた素因数分解の一意性ですが、こんなところでこんにちはします。さて、順番に説明していきます……が、必要な知識の都合上いくつかは割愛します。

整域

誠に残念ながら、聖域(サンクチュアリ)のことではありません。さて、整域とは零因子を持たない環のうち、自明な環 \{0\} でないものを言います。おう、知らない単語を知らない単語で説明するのやめーやという話ですので、零因子の解説をしていきます。

前回、n次正方行列全体が環になるという話をしました。そこでイメージしやすいように、実数のみを要素に持つ2次正方行列全体、すなわち M(2,{\mathbb R}) を考えていきます。M はmatrixの頭文字です多分。実数の積であれば、xy=0 の時、x,y のいずれかが 0 になりましたが、行列の積がそうなるとは限らないということを理系の方は数Cで学んだかと思います。具体的に

X=\left(
\begin{array}{rr}
1 & 0 \\
0 & 0
\end{array}
\right),
Y=\left(
\begin{array}{rr}
0 & 0 \\
0 & 1
\end{array}
\right)

とすれば X,Y はいずれも行列における加法単位元 {\bf 0} (すべての要素が0)ではありませんが、XY={\bf 0} となります。このように、0ではないが積が0になる元を零因子と言います。つまり整域とは、0を含まない積が0になることはないよという性質を保証する環ということになります。原始的な例だと整数全体がそうですね。またお前かという感じですが。

一意分解整域

ざっくりした感覚は先ほど説明した通りです。代数学的に言えば、任意の元が既約元の積で一意に書けるような整域のことを指します。先の議論同様、以下既約元の説明です。既約元とは、0でも単元(可逆元)(逆元を持つ元のこと)でもない元のうち、二つの非単元の積で表せないものを言います。一意分解整域の原始的な例は整数全体です。まあ素因数分解がどうのこうのという話だったので当然ではありますが。この整数環  {\mathbb Z} において単元は  \pm 1(それぞれ自分自身が逆元になる)、既約元は素数となります。

ユークリッド整域

定義についての細かい話はしませんが、ユークリッドの名の通り、一般化されたユークリッドの互除法を保証する整域のことです。二つの自然数の最大公約数を求めることができるアレです。世代によっては高校の数学で触れていない可能性があります。私は触れていません。

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よくわかる現代数学 代数学4「環」

前回までに集合上の演算を定義しましたが何故このように回りくどいことをするかというと、1+1=2を正しい演算であると保証する論理を理解するためです。普段気にせず使っている加法や乗法ですが、まあなんかいい感じに計算できてるからいいんじゃねで済まされないのが数学という学問です。

まあ厳密に組み立てようものならペアノの公理によって自然数を定義するところから始めないといけないので、物好きな方はそこから加法、乗法、整数、有理数と構成していってもいいと思います。割とオーソドックスな議論なので多分某ウィキとかにも手順が載ってると思います。

さて、ここで一つ確認です。一般的な加法(+)で群になり得ない(・・・)集合は次のうちどれでしょうか。

1.自然数全体 {\mathbb N}
2.整数全体  {\mathbb Z}
3.有理数全体 {\mathbb Q}
4.実数全体  {\mathbb R}

いいですね、正解は1の自然数全体です。単位元の有無に関しては0を自然数に含めるか含めないかで流派が分かれますが、逆元すなわち負の数は自然数ではありません。センター試験みたいな問いですね。なので以降の議論では基本的に2~4の集合と、それから複素数全体の集合を扱っていくものと捉えてください。

アーベル群

前置きが長くなりました。それでは話を進めてまいります。集合上に足し算を定義したので次は掛け算です。引き算は足し算の逆演算なので、前回の議論でいえば逆元の存在と同質の命題となるため省略します。

乗法を導入するにあたって、前回定義しなかった加法の可換性(交換法則)を定義します。一般に1+2=2+1が成り立つようなルールのことです。まあ大丈夫だとは思いますが。このように、演算に対して可換性が定義された群をアーベル群(可換群)といいます。それでは前回同様、一般的に書き直します。

アーベル群の定義
集合 A がその上の演算 f:A \times A \longrightarrow A についてアーベル群であるとは以下の条件を満たすことを言う。
1.結合法則 A の任意の元 a,b,c に対して
f(a,f(b,c))=f(f(a,b),c)
2.単位元  A の任意の元 a に対して A の元 e が一意にあって
f(a,e)=f(e,a)=a
3.逆元   A の任意の元 a に対して A の元 w が一意にあって
f(a,w)=f(w,a)=e
4.交換法則 A の任意の元 a,b に対して
f(a,b)=f(b,a)

一般的な掛け算を入れるに辺り、まずはアーベル群を定義しました。この上に二つ目の演算を定義します。アーベル群の上に、であるのでその定義は省略します。以下の条件を満たす集合をと言います。

環の定義
集合 A がその上の演算 f:A \times A \longrightarrow A 及び g:A \times A \longrightarrow A について環であるとは以下の条件を満たすことを言う。
1.可換群  Af について可換群をなす。
2.結合法則 A の任意の元 a,b,c に対して
g(a,g(b,c))=g(g(a,b),c)
3.単位元  A の任意の元 a に対して A の元 e が一意にあって
g(a,e)=g(e,a)=a
4.分配法則 A の任意の元 a,b,c に対して
g(a,f(b,c))=f(g(a,b),g(a,c))
g(f(a,b),c)=f(g(a,c),g(b,c))

特に分配法則は写像の言葉で書くとややこしいですが、まあ昔に習った分配法則と大差ないので a(b+c)=ab+ac,(a+b)c=ac+bc のことだと思ってもらっても差し支えないです。ところで加法の定義と見比べてもらえれば分かるかと思いますが、乗法は逆元の存在と可換性が定義されていません。ざっくり逆元を定義すると、可換性を定義すると可換環になりますが前者は触れません。

掛け算が交換法則を満たさない、と聞けば大半の人は違和感を覚えるかもしれませんが、カリキュラム改定前の高校理系数学ではすでに非可換な環について勉強しています。「数学C」は行列ですね。正確に言うとn次正方行列全体ですが、高校では2行2列のものを特に扱った記憶があると思います。

最後に、可換環について書いて終わろうと思います。とは言っても同じことの繰り返しなのでコピペなんですけど。

可換環の定義
集合 A がその上の演算 f:A \times A \longrightarrow A 及び g:A \times A \longrightarrow A について可換環であるとは以下の条件を満たすことを言う。
1.環    Af 及び g について環をなす。
2.交換法則 A の任意の元 a,b に対して
g(a,b)=g(b,a)

はい、こうして可換環を定義しました。特に整数全体の集合 {\mathbb Z} はこれに該当するので、ようやく身近な算数が数学によって丁寧に定義された感が出てきましたね。これらのナンバリングされた条件は、整数の計算をするにあたって守らなければいけないルールなので、このルールに従えば、足し算より先に掛け算をしないといけないということが分かります。論理的に証明したければ、背理法で足し算を先に計算した場合の矛盾を導くなどしてください。

よくわかる現代数学 代数学3「群」

直積集合

もの(・・)の集まりを集合と言うという話をしました。ものの取り方は原則自由で、ものの集め方は明確に範囲を決定できる場合のみ、として私たちは集合を構成します。そこで、二つのものを一つの組にした順序対を考えていきます。

(a,b),\ (\text{鯖},\text{鮪})

お約束のお魚構文ですが、あくまでこういうのもアリという例示のつもりで出しています。さて順序と名のある通り、要素の順序を無視してものを同一視することはできません。すなわち

a=a^{\prime}, \ \ b=b^{\prime}

の場合にのみ、

(a,b)=(a^{\prime},b^{\prime})

とします。そこで、この各要素 a,b をある二つの集合 A,B によって

a \in A, \ \ b \in B

と取ります。言い換えると、それぞれの集合から要素を一つずつ取り出して順序対を作るということになります。するとそうしてできた順序対を一つのものと捉えて、順序対の集まりを作ることができます。これを直積集合と言い、

A \times B=\{(a,b) \ | \ \ a \in A, \ \ b \in B \ \  \}

と表記します。ここまでの表記で察しの良い方は気づくでしょうが、A=B={\mathbb R} とすれば平面と座標の一般化になります。二次関数やら微分やらで散々やった xy 軸とかいうやつです。

ある条件を満たす演算が一つ入っている集合をと言います。演算というのは四則演算に代表されるような、二つの要素に関するルールのようなものです。

さて、条件がどうのという話は一旦さておいて、集合に演算を入れるというのを一般にどのような形で行うかを述べていきます。今回、分かりやすさのため、二つの元(要素) x,y \in {\mathbb R} に対する演算を + を用いて x+y と表すことにしましょう。お誂え向きなどの発言はご法度ですよ。先に結論から言ってしまうと、

f: {\mathbb R} \times {\mathbb R} \longrightarrow {\mathbb R}, \ f(x,y)=x+y

こういう感じですかね。今回は  {\mathbb R} 上の演算なので、写像の行き先を {\mathbb R} としたいところです。また引数としては二つの元が必要なので直積集合で書きます。あとは中身を具体的にを定めた演算の記号で表せば、ご存知の通り足し算を定義することができました。それでは一般化し、更に条件を付け加えます。

群の定義
集合 A がその上の演算 f:A \times A \longrightarrow A について群であるとは以下の条件を満たすことを言う。
1.結合法則 A の任意の元 a,b,c に対して
f(a,f(b,c))=f(f(a,b),c)
2.単位元  A の任意の元 a に対して A の元 e が一意にあって
f(a,e)=f(e,a)=a
3.逆元   A の任意の元 a に対して A の元 w が一意にあって
f(a,w)=f(w,a)=e

一意、というのは一つに決まる、ということです。また注意すべき点として、いわゆる交換法則は群の成立に関係ないことを挙げておきます。あえて写像の記号を使いましたが、基本的に多用されるのは一般的な + , \times といった記号です。
二項演算 +(加法)において単位元0 、逆元を -a と書き、二項演算 \times(乗法)において単位元1 、逆元を a^{-1} と書くことが多いです。というかまあ見慣れた表記ですよね。

よくわかる現代数学 代数学2「集合と写像」

特別な集合

集合を文字で記述する際、要素を小文字 a 、集合を大文字 A 、ちょっと特殊な集合をカリグラフィーフォント \mathcal{A} 、集合の集まりをスクリプト(花文字)フォント \mathscr{A} で書くことが多いです。これらは全てアルファベットの A を表しています。こうしなければならない決まりはありませんが、念頭に置いておけば参考書などは多少読みやすくなるかと思います。
またこのようなフォントの他、頻繁に用いられる特別な集合にはボールド体や白抜きで記号を与えられることがほとんどです。

{\bf N},{\mathbb N}=\{\text{自然数全体}\}

{\bf Q},{\mathbb Q}=\{\text{有理数全体}\}

{\bf R},{\mathbb R}=\{\text{実数全体}\}

{\bf C},{\mathbb C}=\{\text{複素数全体}\}

その他、ボールド体や白抜きでベクトルを表す時もあります。以降、断りがない場合はこれらの集合を用いて色々定義したり議論したりしていきます。

写像

ある二つの集合 A,B について、A のどんな要素にも B の要素を持ってきて対応させる規則が作れる時、その規則そのものを写像あるいは関数と言います。文献によっては集合が {\mathbb R},{\mathbb C} の場合に関数と呼ぶようにしているものもあります。例えば

A=\{1,2,3,4,5,6\}

B=\{1,-1\}

として、A の要素が偶数なら 1 、奇数なら -1 を返す写像 f

f:A\longrightarrow B

と定義できます。とは言ってもこのくらいシンプルな写像なら f(n)=(-1)^n と書いてしまえるんですけど。
この例から見て取れるように、二つの集合が同じだけ要素を持っている必要はないですし、何なら A のすべての要素が写像によって B の要素一つに集約されてしまっても問題はありません。あるいは見かけが同じ二つの集合を持ってきてもいいです。というか高校や大学一年生までに習う関数のほとんどが以下の形に該当します。

f:{\mathbb R}\longrightarrow {\mathbb R}

つまり、実数を一つ取ってきて関数 f に代入したら別の実数になりました。よくある話ですね。

像と逆像

ところで、A の要素 a に対してこれを関数 f:A \longrightarrow B に代入したもの f(a) を集めてきて集合を作ることができます。すなわち

f(A)=\{f(a)| \ \ a \in A\}

f による Aと言います。この時、f(A)B の部分集合になります。A=B={\mathbb R}f(x)=x^2 とすれば f({\mathbb R}) は0以上の実数全体なので {\mathbb R} の部分集合になることが簡単に分かります。
逆に、B の部分集合 B_1 について A の部分集合 A_1 を持ってきて f(A_1)=B_1 とできる時、

f^{-1}(B_1)=\{a\ \ | \ \ f(a) \in B_1\}

f による B_1逆像と言います。この時、f^{-1}(B_1)A の部分集合になります。同じようにA=B={\mathbb R}f(x)=x^2 とし、更に B_1=\{1 \le x \le 4\} とすれば f^{-1}(B_1) は二乗して1以上4以下の数字の集まりなので、具体的に f^{-1}(B_1)=\{-2 \le x \le -1,1 \le x \le 2\} となります。

よくわかる現代数学 代数学1「集合」

はじめに
よくわかると銘打ってはいますが説明が下手くそなので多分よくわかりません。あらかじめご了承ください。
数学は大きく三つの分野に分かれます。関数を微分したり積分したりする「解析学」、図形の面積や体積を求める「幾何学」、そして方程式の解や数字の性質を調べる「代数学」、この三つです。今回はこの三つ目についてお話します。

代数学においてもっとも基本的でもっとも重要な概念が集合です。

A=\{x|x\text{は2の倍数}\}

B=\{x|x\text{は3の倍数}\}

A\cap B=\{x|x\text{は6の倍数}\}

というような表記を高校数学でやった記憶のある人も多いと思います。この例では数の集まりを集合、その一つ一つを元もしくは要素と呼んでいましたが、数を要素に持つものばかりが集合というわけではありません。集合の書き方として、要素を全て書き下すというものもありました。

C=\{\text{鯖,鮪,鯵,鮭,鰹,鮎}\}

別にふざけているというわけではなく、ルール上これも集合として扱うことができるという例です。たまたま魚で統一しましたが、鯖の代わりにキャベツが入っていてもいいですし、鰹の代わりに牛乳が入っていてもいいです。あくまで、もの(・・)を集めてきたものが集合であって、そこに共通の性質が必要とかそういうことはないです。まあそういうある種の性質がないと学術的に何の価値もないんですけど。それから、要素が一つもない集合を空集合と言いました。

追記
集合の範囲を明確に設定できる必要はあるので、数字と魚が混在するような集合を作ることはできません。

また、集合の集まりというのも存在します。そのような集合を一般に集合族と言います。

{\mathscr S}=\{A,B\}

ところで集合はよく食べ物とお皿に喩えられますが、するとこれは2の倍数が乗ったお皿と3の倍数が乗ったお皿と魚が乗ったお皿が大きなトレイに乗っているというカオスな状況になります。あくまでイメージですので、特にふざけている意図はありません。

追記
追記1の通りなので、数の集まりと魚の集まりを同列に扱うことはありません。ご了承ください。

それから、集合と集合の集まりとでは違うので上記のように書体を区別する傾向にあります。

さて、以降の説明では、簡単のためサイコロの出目を例にして用語の解説をしていきます。すなわち

X=\{1,2,3,4,5,6\}

となります。この六つの要素から適当にいくつか取り出して別の集合を作ることができます。つまりどういうことかというと

Y=\{1,3,5\}

Z=\{1,2,3\}

と、こんな感じです。上のは奇数を取ってきた集合で、下のは3以下を取ってきた集合です。このような YZ を集合 X部分集合と言います。空集合と自身の X を含め、集合 X の部分集合は全部で64個存在しますが、この部分集合の集まりを部分集合族と言ったりします。厳密には少し面倒な議論が必要ですが、この部分集合族という概念は代数学の分野でも軽率に出てくるので早期に覚えておくことをオススメします。

思いの外長くなってしまったので今回はここまで。