よくわかる現代数学 代数学4「環」
前回までに集合上の演算を定義しましたが何故このように回りくどいことをするかというと、1+1=2を正しい演算であると保証する論理を理解するためです。普段気にせず使っている加法や乗法ですが、まあなんかいい感じに計算できてるからいいんじゃねで済まされないのが数学という学問です。
まあ厳密に組み立てようものならペアノの公理によって自然数を定義するところから始めないといけないので、物好きな方はそこから加法、乗法、整数、有理数と構成していってもいいと思います。割とオーソドックスな議論なので多分某ウィキとかにも手順が載ってると思います。
さて、ここで一つ確認です。一般的な加法(+)で群になり
いいですね、正解は1の自然数全体です。単位元の有無に関しては0を自然数に含めるか含めないかで流派が分かれますが、逆元すなわち負の数は自然数ではありません。センター試験みたいな問いですね。なので以降の議論では基本的に2~4の集合と、それから複素数全体の集合を扱っていくものと捉えてください。
アーベル群
前置きが長くなりました。それでは話を進めてまいります。集合上に足し算を定義したので次は掛け算です。引き算は足し算の逆演算なので、前回の議論でいえば逆元の存在と同質の命題となるため省略します。
乗法を導入するにあたって、前回定義しなかった加法の可換性(交換法則)を定義します。一般に1+2=2+1が成り立つようなルールのことです。まあ大丈夫だとは思いますが。このように、演算に対して可換性が定義された群をアーベル群(可換群)といいます。それでは前回同様、一般的に書き直します。
環
一般的な掛け算を入れるに辺り、まずはアーベル群を定義しました。この上に二つ目の演算を定義します。アーベル群の上に、であるのでその定義は省略します。以下の条件を満たす集合を環と言います。
集合 がその上の演算 及び について環であるとは以下の条件を満たすことを言う。
1.可換群 は について可換群をなす。
2.結合法則 の任意の元 に対して
特に分配法則は写像の言葉で書くとややこしいですが、まあ昔に習った分配法則と大差ないので のことだと思ってもらっても差し支えないです。ところで加法の定義と見比べてもらえれば分かるかと思いますが、乗法は逆元の存在と可換性が定義されていません。ざっくり逆元を定義すると体、可換性を定義すると可換環になりますが前者は触れません。
掛け算が交換法則を満たさない、と聞けば大半の人は違和感を覚えるかもしれませんが、カリキュラム改定前の高校理系数学ではすでに非可換な環について勉強しています。「数学C」は行列ですね。正確に言うとn次正方行列全体ですが、高校では2行2列のものを特に扱った記憶があると思います。
最後に、可換環について書いて終わろうと思います。とは言っても同じことの繰り返しなのでコピペなんですけど。
はい、こうして可換環を定義しました。特に整数全体の集合 はこれに該当するので、ようやく身近な算数が数学によって丁寧に定義された感が出てきましたね。これらのナンバリングされた条件は、整数の計算をするにあたって守らなければいけないルールなので、このルールに従えば、足し算より先に掛け算をしないといけないということが分かります。論理的に証明したければ、背理法で足し算を先に計算した場合の矛盾を導くなどしてください。